ミンが仕掛ける最新の工業的アプローチ。

もしミンをコレクションに加えたいと考えたことがあるならば、そのきっかけはきっと、同ブランドがこれまでに生み出してきた数々の“奇抜な”ダイヤルに引かれたからではないだろうか。たとえばミニマルなデザインの37.02 “ミニマリスト”、星空をあしらった遊び心あふれる37.05 ムーンフェイズ シリーズ2、そして非常に複雑かつ抽象的なダイヤルを備えた20.01 シリーズ3などはその筆頭だろう。創業者ミン・ティエン(Ming Thien)氏の手による、視覚的にも製造技術的にもユニークなデザインへの飽くなき探求心により、ミンというブランドは決して現状に満足することなく進化を続けてきた。確かにそのデザイン言語は、ひと目で“ミン”とわかる独特なものである。だがその枠組みのなかに、上に挙げたような多種多様なモデルが詰め込まれているのである。

Ming 20.01 Series 5 Up Close
Ming 20.01 Series 5 Dial Slanted Closeup
Case side of Ming 20.01 Series 5
この度、20.01 シリーズ5がミンの技巧的なダイヤルデザインの世界に新たに加わった。数カ月前にこの時計のダイヤルのプロトタイプを初めて目にしたとき、正直なところ“これは一体何なんだ?”と思った。だが、現在第5世代となったアジェングラフ搭載クロノグラフウォッチとして完成された姿を見て、ようやく腑に落ちた。サファイアクリスタルを活用したミンならではの“反転効果”を持つダイヤルとは一線を画す仕上がりではあるが、この力強いデザインはセンター同軸積算計を持つクロノグラフ機能と見事に調和している。見た目は、サンレイ仕上げのダイヤルを抽象的かつほとんどブルータル(荒々しく構築的)に再解釈したかのようだ。なお、こうしたダイヤルはしばしば、新たな製造技術が生まれるにあたりコンセプトモデルとしての役割も果たすことがある。本作はまさにその好例であり、複雑な構造にもかかわらず、ひと塊のチタンから削り出されているというのだから驚きである。

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そう、このダイヤルは多数の面が入り組んだ極めて複雑な幾何構造を持ちながらも、ひとつの無垢材から成り立っている。ミンによればこれは業界初の試みであり、金属ブロックをレーザーで加工し、放射状に傾斜する突起と、それらが縦横に噛み合うような起伏を形成しているという。この美学が個々人の好みに合うかどうかは別として、本作のダイヤルがマイクロマシニングの驚異的な成果であることに疑いの余地はない。こうした産業プロセスが実現可能になったことが、将来的にどんな可能性を開くのか想像は尽きない。このダイヤル全体にはブルーのPVDコーティングが施されており、さらに別のレーザー加工によって突起部分のコーティングが除去され、チタンの地肌が露出している。

Ming 20.01 Series 5 lume shot
夜光ショット。courtesy of Ming.

Ming 20.01 Series 5 Tachymeter
Ming 20.01 Series 5 Soldier Shot
ブルーダイヤルという選択は理解できるが、この構造を見れば、モノクロームでの仕上げが適切だったのではないかと感じずにはいられない。遠目には均質な外観でありながら、近づいて見ると起伏に富んだ地形、丘や谷、入り組んだ凹凸が浮かび上がるような表情が確認できる。しかしながら、このブルーも悪くはない。やや変則的な色調と、PVD特有のざらついた質感が心地いい。時・分針には全面ポリッシュ仕上げの上にたっぷりとスーパールミノバX1が充填されており、視認性にも配慮されている。ただし非常に細かな要素が並ぶダイヤルのなかでは、やはり読み取りには若干の集中を要する。

中央のクロノグラフ秒針および分針はホワイトで統一されているが、こちらには夜光塗料は使われていない。ダイヤル自体にはミニッツトラックは設けられておらず、時間計測に関するすべての目盛り(タキメーターやミニッツスケールを含む)は、ドーム型のサファイアクリスタルに転写されている。これらの目盛りはサファイアの内側に刻まれたのち、ミン独自のポーラーホワイト夜光が充填されており、同ブランドが長らく目指してきた“白く発光する夜光”という理想をついに実現したものとなっている。

Ming 20.01 Series 5 agengraphe movement
Ming 20.01 Series 5 Chronograph lever closeup
Ming 20.01 Series 5 bridge closeup
ミン 20.01 シリーズ5を動かすのは、引き続きアジェノー製の手巻きクロノグラフムーブメントであるアジェングラフ Cal.6361.M1である。これはミンのためにカスタマイズされたアジェングラフであり、中央のブリッジにはミンのアイコンであるポーラーベア(北極グマ)のモチーフがあしらわれている。アジェングラフは現在、モダンなインディペンデントブランドにとって高級クロノグラフムーブメントの“事実上の選択肢”となっており、ミン、モーザー、シンガーといったブランドがすぐに思い浮かぶ。

それも当然である。このムーブメントの構造は視覚的にも見事で、今回のミン仕様では自動巻きローターを廃し、手巻き専用として設計されている。さらにブリッジには5Nローズゴールドのコーティングが施され、外観上もきわめて印象的な仕上がりとなっている。加えて、完全に巻き上げられた状態で巻き止め機能が作動する構造となっており、自動巻きに搭載されるスリップ機能とは明確に差別化されている。

Ming 20.01 Series 5 Wrist Shot, Centralizers reset
このムーブメントは34個のパーツから成る20シリーズのケースに収められており、異素材によるハイブリッド構造を採用。ケース径は41.5mm、厚さは14.2mmである。ベゼル、ラグ、裏蓋、リューズはステンレススティール製である一方、プッシャーはダイヤルと色を合わせたチタン製。ミドルケースもブラックDLC仕上げのチタン製となっている。ストラップにはダイヤルとの質感的な相性を考慮したダークブルーのアルカンターラが標準採用されており、スポーティな装着感を求めるならば付属のブラックFKMラバーストラップに付け替えることも可能だ。防水性能は50mで、日常使用には十分なスペックである。またショートラグ、いわゆる“フライングブレード”型のラグにより、さまざまな手首サイズに対応する装着感を実現している。ただしボリューム感は否めず、手首に宇宙船を乗せているような感覚であるため、ドレスシャツの袖口にはやや不向きである。

価格は3万7500スイスフラン(日本円で約675万円)で限定25本。これは間違いなく、熱狂的なミン愛好家に向けた1本である。ただし価格帯としては、ほかのアジェングラフ搭載の最高級モデルとほぼ同水準であり、もし“ミンのクロノグラフ”を求めているのであれば、これ以上に満足できる選択肢はほとんど存在しないだろう。