マニア垂涎の逸品が復刻
今回インプレッションを行うのは、タイメックスの新作、「Timex 80 グローインザダーク」。本作は、2011年に発売されたタイメックス製デジタルウォッチの復刻モデルである。パッと見た印象は、オールホワイトのカラーリングが爽やかな、樹脂製のスクエア型ケースを採用したスタンダードなデジタルウォッチ。しかし、暗闇の中に持ち込むとその印象は一変する。ケースとストラップに蓄光素材を採用しているため、全体がぼんやりと光を放つのだ。
タイメックス デジタル
タイメックス「Timex 80 グローインザダーク」Ref.tx-tw2y02600
ホワイトのケースと半透明なストラップが爽やかなデジタルウォッチ。外装に蓄光素材を採用していることが特徴だが、もちろん明るい場所でも魅力的だ。クォーツ。樹脂ケース(直径34mm、厚さ9mm)。30m防水。1万3750円(税込み)。
2011年のオリジナル発売時は、日本国内にわずかな本数が入荷し、瞬く間に完売してしまったという。その後もファンからの根強いリクエストがあったのだろうか。2025年、日本だけの数量限定として復刻されたのである。当時を知る人にとってはもちろん、そうでなくても、蓄光樹脂製の外装は目を引くポイントである。幻の存在として語り継がれてきた、グローインザダークをレビューする。
蓄光樹脂製ケースが妖しく光る
本作のベースとなっているのは、タイメックスを代表するデジタルウォッチ、「Timex 80(タイメックス エイティ)」だ。その特徴である、1980年代に普及したデジタルウォッチの意匠を取り入れたデザインは、グローインザダークにも引き継がれている。
ベゼルが一体となったミドルケースは蓄光樹脂製。真っ白ではなく、やや黄色っぽさを感じるアイボリー、リシャールミル スーパーコピー代引きまたは乳白色のような色味だ。スクエア型ケースは、幅34mmと小ぶりなサイズ感。3時側と9時側のサイドにはそれぞれふたつずつ、金属製のプッシュボタンが備わっている。ベゼルはケースの形状に合わせた変則的な八角形であり、アクリル製の風防を保護している。
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ベゼルと一体成型されたミドルケースは、レトロなスクエア型。サイドには金属製のプッシュボタンが備わっている。
ケースバックは、ステンレススティール製だ。中央にはブランドロゴ、その周囲には、防水性能や使用している電池種別を表す文字が刻まれている。ケースバック自体は4つのネジによってミドルケースに固定されており、この構造によって30m防水が確保されている。ネジ溝はプラスやマイナスではなくY型。知識や技術のないユーザーが開けることを防ぐため、特殊な形状としているのだろうか。不用意に開けようとすると、ネジをなめてしまうことや、パッキンやムーブメントを損傷させてしまうことにもなりかねない。電池交換の際には、面倒でもプロに依頼すべきだろう。
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ケースバックはステンレススティール製。4つのネジによってミドルケースに固定されている。
せっかくの蓄光樹脂製ケースなので、十分に光に当てた後、暗闇に持ち込んでみる。発光する様子は、目に優しくぼんやりとしており、ずっと眺めていられるほどだ。実用面でのメリットは、暗い部屋の中でどこに時計を置いたかがすぐに分かるようになるくらいだろう。しかし、ただ外装が光っているだけで不思議と湧き起こってくるワクワク感は、それ以上の価値を提供してくれる。
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暗所ではライトグリーン色に発光する。写真では分かりにくいが、ケースだけではなくストラップも光る。
通気性に優れる樹脂製ストラップ
ストラップも蓄光樹脂製だ。ケースに比べると薄いため、半透明で裏側が透けて見える。本作は見た目に軽やかな印象があるが、それは恐らくこの半透明のストラップによるものだろう。ラグ幅は18mm。バネ棒によってケースに固定されているため、サードパーティー製に付け替えることは可能だが、純正以上に相性の良いストラップはそうそう見つからないだろう。むしろ、本作のストラップを別のモデルに装着する方が楽しみの幅に広がりが出るかもしれない。
ストラップはケース側に蛇腹状のうねりを持たせ、裏面の中腹から先端に向けて、細かな溝を設けている。恐らく、装着時に肌への密着を防ぎ、通気性を確保することによって装着感を高める意図だろう。また、多少きつめに装着していた際、不意に引っ張られるようなことがあったとしても、多少の衝撃であれば蛇腹部分が吸収してくれるはずだ。遊環はひとつ備わり、ステンレススティール製のピンバックルが装着されている。ツク棒を通す穴は9個設けられているため、幅広い手首回りに合わせることが可能だ。
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ケースは薄く軽量なため着用しやすい。ストラップには蛇腹状の部分があり、通気性が確保されている。
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ピンバックルで固定するシンプルなストラップ。6時側には9個の穴が設けられているため、サイズ調整の幅が大きく、パートナーとのシェアウォッチとしても使いやすい。
やや黄色みを帯びたレトロな液晶
スクエア型の液晶ディスプレイに目を移してみる。表示は至ってシンプルであり、説明がなくても容易に読み取りが可能だ。液晶の上部には月と日、その下に小さく曜日、さらに下部には大きく時分秒が表示されている。明解なレイアウトは、瞬時の判読性の良さにつながる。
本作には通常の時刻表示の他、アラームとクロノグラフ機能が備わっている。8時位置のプッシュボタンを押下するごとに、時刻表示の画面から、アラーム、クロノグラフとモードを変更することが可能だ。アラームの画面では、10時位置のプッシュボタンでアラーム時刻の設定を、2時位置のプッシュボタンでアラームのオンオフを切り替えることができる。クロノグラフモードでは、2時位置のプッシュボタンがスタートとストップ、4時位置がスプリットとリセットをつかさどる。各プッシュボタンの機能は液晶を囲む枠に記載されているため、説明書に頼らずとも迷わず操作することが可能だ。
時刻表示またはアラームの画面では、4時位置のプッシュボタンを押下することによって、インディグロナイトライトを起動することができる。押している間、液晶が発光し、暗所での視認性を高めてくれる優れものだ。アナログウォッチでは、針やインデックスがわずかな光を拾うことで、あるいは蓄光塗料を塗布することで暗所での視認性が保たれる場合がある。しかし、物理的な針などを持たない液晶表示のデジタルウォッチでは、そのようなことは望めない。こうしたバックライト機能は、本作のような時計にとって必須と言えるだろう。
装着感は良好
軽量な樹脂製ケースであることと、幅34mmという小ぶりなサイズであることからも想像できるように、装着感は非常に良い。薄くしなやかな樹脂製のストラップも、着用時の快適さに貢献している。長時間着用していると、手首に着けていることを忘れてしまうほどだ。オールホワイトのカラーリングが見た目にも軽やかで、これからの季節、手元を爽やかに飾ってくれることだろう。
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袖口にもしっかりと収まる。ちなみにこの状態で暗闇に持ち込むと、3時側半分のみ発光する。
ただひとつ、使用していて気になるポイントがある。それは液晶の視認性の悪さだ。一般的なデジタルウォッチでは、白地に黒文字の液晶が搭載されている。その白と黒とのコントラストによって視認性を確保しているのだ。本作も白地に黒文字と言えるのだろうが、白というよりは黄色に近く、かつ液晶そのものの輝度があまり高くない。屋外などの明るい場所では不自由ないが、少しだけ暗い室内などでは、時刻を読み取ることに少々苦労する。インディグロナイトライトを起動すれば良いかとプッシュボタンを押すものの、そこまでライトが強くないため、やはり少し見にくい。ライトは暗闇の中ではしっかりと発光するが、半端な暗さの中では期待したほどの効果はないようだ。
懐かしくも新鮮な、遊び心にあふれた1本
スタンダードなデザインのデジタルウォッチに、蓄光樹脂製ケースで強烈な個性を与えた本作は、いわゆる高級時計とは違ったベクトルの魅力的な時計であった。角が丸く、成型時のパーティングラインが浮かんだケースには、価格相応と言うべきか、お世辞にも高級感はなく、少し黄色がかった液晶は視認性の面で実用的とは言えない。しかし、それらがもたらす、程よく力の抜けた気軽さは、本作のような時計でしか味わうことのできないものだ。Timex 80は、1980年代のデジタルウォッチにオマージュを捧げるコレクションである。筆者は当時の製品を見てきたわけではないが、多少粗削りな部分があった方が“リアル”ではないかと思う。
また、暗闇でケースとストラップが発光する様子や透けたストラップは、筆者に懐かしさを感じさせた。筆者が子供の頃、スケルトンや蓄光の玩具が流行していたのだ。本作を見て、幼い頃の子供部屋に散乱した、内部の基板が見えるスケルトンのゲーム機や蓄光樹脂で作られた怪獣のフィギュアが、ふと思い起こされた。透けていたり、光ったりすることに実用的な意味はない。しかし、そうあることでもたらされるワクワク感は、確実に存在する。
今回レビューしたTimex 80 グローインザダークは、日本からのリクエストによって、日本だけで復刻されたモデルだ。そう考えると、本作は日本人の感性のどこかに響く存在なのだろう。手にしてみれば、今は忘れてしまった、しかし大切にしていた思い出に再会できるかもしれない。