ヴィンテージロレックスの頂点に立つ手巻きデイトナ。

なかでもコスモグラフ Ref.6239のファーストモデルである“ル・マン”は、謎の多いモデルとして知られている。ル・マンとは、どのようなモデルだったのか。そしてロレックスはなぜ“デイトナ”へと舵を切ったのか。コレクターや有力なヴィンテージウォッチディーラーの力を借り、さまざまな角度から考察することで、その理由が浮かび上がってきた。

ヴィンテージロレックスには謎めいたモデルが非常に多い。オークションハウス、熱狂的なコレクター、有力なヴィンテージウォッチ専門店らの熱心な研究によって、徐々にその真相が解明されている。ポール・ニューマンダイヤルの人気に支えられ、“キング・オブ・クロノグラフ”として市場に君臨するコスモグラフ デイトナの手巻き時代のリファレンスも例外ではない。Ref.6240の文字盤に“ROLEX”とだけ表記される通称“ソロ”がその好例で、不確定要素が多いことから数年前と比べて価格が落ちている。それどころか現在では、ソロダイヤルはRef.6238に入るという話が有力視されているそうだ。対照的に人気が安定しているモデル、評価が上がり続けているモデルというのも存在している。ここ最近のオークションでは、バゲットカットのダイヤモンドベゼル、ダイヤモンド&サファイアのパヴェダイヤルを備えたRef.6270が日本円にして約5億6000万円で落札されたことは記憶に新しい。

なかでも最初期型のRef.6239、上の古いアドバタイジングに掲載された“ル・マン”と呼ばれるモデルは、コレクターたちの研究によって“再発見”されたことで注目されるようになったと言っても過言ではない。2013年にHODINKEE創業者のベン・クライマーはRef.6239のファーストモデルに関する記事を執筆しているが、当時のコレクターたちの認識では、変わったディテールを備えてはいるものの、デイトナ表記のない最初期型モデルという程度。ごく一部のコレクターがその存在を知っているくらいであり、今ほど注目を集めるようなものではなかった。2017年10月にフィリップスがコスモグラフ デイトナをテーマにしたオークション『ウィニングアイコンズ』を開催したが、ヴィンテージロレックスの世界でル・マンの存在が知られるようになり、コレクターたちがざわつき始めたのは、このオークションからさかのぼること数年前の2015年ごろだったと記憶している。とある雑誌の取材を通じて、国内屈指のヴィンテージロレックスのメガコレクターが所有する実機を初めて見たのだが、華やかなポール・ニューマンダイヤルとは真逆をいくシンプルなデザインに筆者の心は動かされ、のちにRef.6239を購入するきっかけになった。非防水のポンプ型クロノグラフプッシャーを装備したおよそ36.5mm径のケースは、ねじ込み式の防水クロノグラフプッシャーを採用したRef.6263などのモデルとはひと味違う魅力があったのだ。

『ウィニングアイコンズ』でポール・ニューマン本人が所有していた個体が約20億円で落札されて以来、手巻きのコスモグラフ デイトナ全般の価格が飛躍的に上昇し、人気は絶頂を迎えた。その一方でヴィンテージモデルにはより厳密にオリジナリティが求められるようになった。それはル・マンについてもしかりで、たとえ文字盤が正しいものであっても、全体のオリジナリティが損なわれていれば、評価は激減する。それとは対照的に、パーツの整合性が取れた個体の評価は高く、良質な個体に関しては価格は安定している印象だ。

競合だったオメガやロンジンと争い、そして“コスモグラフ”という造語から察するに、当時の宇宙開発競争にも乗り出していたであろうコスモグラフ デイトナ。カーレースの世界に参入することに勝機をみいだしたロレックスの威信をかけたこのレーシングクロノグラフは、発表から数十年の時を経て、有識者たちに“再発見”されたことで、改めて特別な輝きを放つに至った。

1964年当時のロレックスのカタログ。プロフェショナルモデルは3行目に並んでいるが、右端のコスモグラフ Ref.6239の隣には、同時代に併売されていたクロノグラフ Ref.6238が並んでおり、通常のクロノグラフとは明確に区別されていた。

フォーミュラ1のモナコグランプリ、アメリカで開催されるインディアナポリス500と並び、世界3大レースのひとつに数えられるル・マン24時間レースは、フランスのル・マン近郊で行われる四輪耐久レースである。2023年は、この偉大なレースの100周年を数えるアニバーサリーイヤーであると同時に、コスモグラフ デイトナ誕生60周年にあたる節目の年でもある。これを記念して、ロレックスはコスモグラフ デイトナ 18Kホワイトゴールド仕様のスペシャルエディション、Ref.126529LNを発表し、世界中のデイトナファンを熱狂させた。

今でこそ世界で最も有名なクロノグラフとなったコスモグラフ デイトナだが、成功までの過程は決して平坦な道のりではなかった。とりわけ手巻き時代のデイトナのディテールの変遷には、かつてない防水クロノグラフを目指し、ロレックスの開発チームが試行錯誤していた痕跡が見られる。ル・マンはロレックスにおけるレーシングクロノグラフの原点となった存在で、そもそも前述の古い広告のなかで“ロレックスの新しいクロノグラフはル・マンと呼ばれている”という一文とともに掲載されていたことに由来する、デイトナのファーストモデルであるRef.6239の最初期型につけられた通称だ。ル・マンの文字盤にはブラックとクリームホワイト(後者は特に希少性が高い)があり、1963年にのみ製造された。それゆえ、希少性においてはポール・ニューマンダイヤルを上回る。ヴィンテージロレックスに特化した専門店リベルタスのスタッフである中嶋琢也氏の見解によると、ル・マンの主な特徴として、以下のポイントが挙げられるという。

「ル・マンとほかのRef.6239では使用しているパーツに大きな違いがあります。そのひとつがステンレススティール製のタキメーターベゼルです」

Ref.6239の製造期間は1963年から1970年と比較的長い。その理由から製造年によって細かなディテールの違いがある。ベゼルは3種類あり、ル・マンに装着される時速300kmまで計測できる最初期のタキメーターベゼルには、そのほかのベゼルにはない“275”の数字が刻まれる。

「文字盤の6時位置にある“ダブルスイス”と呼ばれるふたつのSWISS表記、長く細い時・分針、これらもル・マンならではの特徴です。クリームホワイト文字盤について言及すると、クロノグラフ秒針がブルースティールのものもあり、デイトナの歴代モデルのなかでも際立った存在があります。“92…”から始まる6桁のシリアルナンバーであることも確認すべき重要事項です」

これ以外にも、夜光塗料にトリチウムを使用したことを意味する12時位置の“アンダーバー”の表記もマニア心をくすぐるデザインとして人気がある。

自身もブラックダイヤルのル・マンを所有する中嶋氏は、その魅力について次のように語ってくれた。「これはデイトナだけではなく、サブマリーナー、エクスプローラー、GMTマスターなどのファーストモデル全般に共通することですが、ロレックスの開発に対する意気込みがひしひしと伝わってきますよね。ル・マンについては、ただただ美しいと感じる優れたデザインに引かれています」

ゼニス × レボリューション 、わずか55gの軽量ハイパフォーマンスモデルだ。

軽量なクロノグラフウォッチを求めているなら、ゼニスとレボリューションがてがけたクロノマスター リバイバルの最軽量モデル“カバーガール カーボン”をチェックすべきだろう。ベルクロストラップ仕様のより手ごろなバージョンと、フルカーボン製のゲイ・フレアースタイルのブレスレットを備えた2種類が用意されており、重量はそれぞれ55gと59gとなっている。クロノグラフとしては驚くほど軽量で、ゼニスとレボリューションによるこの最新コラボレーションは、ルックスも非常に魅力的だ。

Revolution
本作はゼニスの歴史をまとめたマンフレッド・ロスラー(Manfred Rossler)の著書の表紙を飾ったA384をベースとする“カバーガール”リバイバルのデザインを踏襲しながら、素材に高弾性カーボンファイバーを採用している。これはロードバイクや自動車をはじめとするさまざまな分野で性能の向上をもたらした素材であり、具体的にはマクラーレン F1 GTRロングテール、RUF SCR、シンガーによるポルシェ911のプロジェクトが例として挙げられる。

ケースは航空宇宙産業向けのカーボンブロックを使用し、ゼニスがCNC加工によって直径37mm × 厚さ12.5mmのケースへと仕上げている。2020年に発表されたスティールモデルと比較すると重量は半分になり、2022年のチタンモデルからは23.2gの軽量化が実現している。

Zenith x Revolution Chronomaster Revival A3818 ‘Cover Girl Carbon’
文字盤もマットブラックのカーボンファイバー製で、“シャークトゥース”デザインのクロノグラスケールの外周にはパルスメーターとタキメーターが組み込まれている。さらにインデックスやクロノグラフスケール、針にはスーパールミノバが塗布され、強調されるとともに視認性が高められている。そしてムーブメントには、3万6000振動/時で作動し、約50時間のパワーリザーブを備えた高振動の自動巻きエル・プリメロ キャリバー400を搭載した。

機能としては、時・分・秒表示、デイト表示、30分積算計、12時間積算計を装備。価格はベルクロストラップ仕様(編注;これにはブラックのエンボスラダー・エフェクトカーフレザーストラップが付属)が176万円(税込)で限定150本。カーボンファイバー製のブレスレット仕様を希望する場合、2万7210ドル(日本円で約412万円)を用意する必要があるが、こちらはわずか10本のみの限定生産となる。

Zenith x Revolution Chronomaster Revival A3818 ‘Cover Girl Carbon’
我々の考え
よく知られているとおりオールブラックまたはブラックケースの時計に対する私のこだわりはひとしおで、この新作に強く引かれるのも当然だろう。確かに、2万7000ドルという価格はゼニスのリバイバルシリーズとしては高額だが、フルカーボン製のブレスレットが選択肢として登場すること自体が極めて珍しい。さらにレボリューションによれば、これ以上手ごろな価格でブレスレットを製造することは不可能だったとのことで、それゆえに生産本数が非常に限られているのも納得できる。このゲイ・フレアー風のラダーブレスレットは、カーボンファイバー製のG-SHOCKのように極めて頑丈なデザインとは言えないが、見た目の美しさは際立っている。

Zenith x Revolution Chronomaster Revival A3818 ‘Cover Girl Carbon’
リバイバル シャドウにも興味を持っていたが、今回のカーボン仕様はより完成度の高い仕上がりになっている。特に、ダイヤルに施されたホワイトプリントとカーボンケースの色調のコントラストが、従来のデザイン言語をさらに洗練されたものへと押し上げているのだ。全体の調和が取れており、視覚的にも非常に魅力的な1本に仕上がった。いつかこのブレスレット仕様を実際に着用している人に出会い、その全体のバランスを直に確かめてみたいものだ。

基本情報
ブランド: ゼニス×レボリューション
モデル: クロノマスター リバイバル A3818 カーボン カバーガール

直径: 37mm
厚さ: 12.5mm
ケース素材: 高弾性カーボンファイバー
文字盤色: マットブラックのカーボンファイバー製
インデックス: “シャークトゥース”のクロノグラフスケール、外周にはパルスメーターとタキメーターを統合
夜光: スーパールミノバを塗布した針、インデックス、クロノグラフスケール
防水性能: 50m
ストラップ/ブレスレット: ブラックカーボン・エフェクトベルクロストラップ(ブラックのエンボスラダー・エフェクトカーフレザーストラップが付属)、またはゲイ・フレアースタイルのラダー型カーボンファイバー製ブレスレット

porsche design
porsche design
ムーブメント情報
キャリバー: エル・プリメロ Cal.400
機能: 時・分・秒表示、デイト表示、60分積算計と12時間積算計を備えたクロノグラフ
パワーリザーブ: 50m
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 3万6000振動/時
追加情報: 総重量は55g(ベルクロストラップ装着時)、ケースバックとムーブメントリングはブラックのグレード5チタン製