カルティエが「サントス デュモン」のコレクションを復活させてから、

今年発売された「サントス デュモン」 スケルトン マイクロローターにより、2019年にリリースされた比較的手頃な価格、そしてクォーツの「サントス デュモン」からコレクションがどれだけ進歩したかを印象づけた。

カルティエは2023年に、「サントス デュモン」コレクションを復活させた。

「サントス デュモン」は1904年に誕生し、最初の市販男性用腕時計として知られる。同モデルの歴史のほとんどで「サントス デュモン」はレザーストラップに身を包んだドレッシーな時計であった。1978年、カルティエは別ラインとしてサントス ドゥ カルティエを発表。ブレスレットの追加とモデルの改良によって真のスポーツウォッチとなり、オーデマ ピゲやパテック フィリップなどによる新しいブレスレット一体型の高級スポーツウォッチに挑んだ。2019年、「サントス デュモン」のドレスアップしたモデルが再リリースされたことで、このモデルに大きく引かれるようになったが、クォーツでしか手に入らなかったため、違う機械式を探し始めた。結局、90年代製の「サントス デュモン」 CPCPを購入した。この時計についてはこちらに記事を書いている。

イエローゴールド(ブルーラッカー)、ローズゴールド、スティールの3種類の金属を使用した、カルティエ 「サントス デュモン」 マイクロローター。なおイエローゴールドは150本の数量限定。

今年のWatches & Wondersで、カルティエはSS、RG、限定版のYGを素材に使用した「サントス デュモン」 スケルトン マイクロローターを発表した。私が手にすることができたのはSS製バージョンで、デザインを第一に考えつつも、優れた時計づくりをこっそり備えているのだ。

「サントス デュモン」 スケルトン マイクロローターは、カルティエの“ラージ”サイズケースを採用しており、直径が31mm、厚さが8mmとなっている。手首で存在感は放つが“XL”ほど大きすぎず、このモデルにぴったりの現代的なサイズだ。見事なまでのムーブメントに加え、異なるストーンからローマ数字を切り出したほかの新作「サントス デュモン」と比較して、スケルトン マイクロローターのほうを好む理由はそのサイズにある。

「サントス デュモン」 スケルトン マイクロローターの主役となるのは新しくスケルトナイズされたCal.9629 MCだ。2009年に発表された“サントス 100”以来、数々のスケルトンキャリバーをリリースしてきたカルティエが新たにリリースした美しいスケルトンムーブメントである。ブリッジがインデックスを形成し、さらに主ゼンマイ、歯車列、ヒゲゼンマイがすべて見えるビジュアルだ。2時位置で見られるように、主ゼンマイは小振りで、キャリバーのパワーリザーブは約44時間とやや短い。ヒゲゼンマイの反対側に位置する主ゼンマイは、キャリバーに対して一定の対称性をもたらす。防水性は30mと、この手の時計としては十分なスペックだ。

本作はマイクロローターの上を飛ぶ小さな飛行機が美的な焦点となっている。実際に時計を手に取る前に取材したときは、なんだかおもしろみに欠けると思っていた。私は「サントス デュモン」が大好きだが、それはそのデザインだからであって、パイロットとの歴史的なつながりがあるからではない。この関連性は素晴らしいマーケティングストーリーにはなるが、マイクロローターは少し直球すぎないかと感じたのだ。

しかし飛行機は大きすぎず、地下鉄の車両を挟んでかろうじて目立つ程度だ。ローターは「サントス デュモン」の歴史にちなんだもので、もともとは同名の有名な飛行士のためにルイ・カルティエが作ったものだ。マイクロローターに施された飛行機は、サントス=デュモンの有名な“ラ ドゥモワゼル”という飛行機の模型だ。話によると、サントス=デュモンは少し風変わりな発明家で、熱気球に乗ってパリの人気の場所でディナーに現れるような人だったという。いずれの場合も、機体は金属とマッチし、デザインにまとまりがあり、ギミックが多すぎない。また、マイクロローターは離陸するために多少の動作が必要になるため、サントス デュモンの着用や計時の邪魔にはならない。

文字盤には伝統的なローマ数字は使われていないが、それでも時間を示すのにシンプルであることは、カルティエのデザインの証でもある。なんといってもベゼルのネジとキャリバーのブリッジの両方が、インデックスとも時間を知らせるのに役立っている。またブリッジにはストラップ(SSはブラック)に合わせて、小さくラッカーの線を入れている 。「サントス デュモン」 マイクロローターのシルエットや形状は一見すると見慣れたもので、オリジナルデザインに忠実でありながら、よく見ると完全に現代的なものにアップデートされている。またカルティエの継承に基づいた忠実な復刻モデルの多くに見られるように、ケースはコンパクトで薄い。同ムーブメントは視覚的にも優れていて、仕上げのほとんどを機械で行っているように見えるが、SSで451万4400円、YGで605万8800円(ともに税込予価)という価格のカルティエに期待するところである。

YGモデルにブルーラッカー仕上げのベゼルとケースを組み合わせたモデルは、2022年のラッカー仕上げのケースの成功を踏まえた、おそらく最高に位置するものだ。ただし150本までと制限されているため、大半の人はRGかSSモデルで落ち着く必要がある。カルティエが通常の生産品でもラッカー処理をしていたら最高だった。

カルティエがコレクションにSSを加えてくれたことに感謝する。そしてそれは金無垢よりも少し安いオプションで、「サントス デュモン」をドレスとスポーツをミックスしたような時計に仕上げている。それでも451万4400円(税込予価)という価格は、SSモデルの例としては決して安価な時計ではないが、過去数年間にカルティエから発売された強気な価格のヘリテージウォッチと比べると、十分楽しめる時計である。

「サントス デュモン」のファンであると公言している私としては、今回のスケルトン マイクロローターはラインナップに加わるにふさわしいと感じる。これはカルティエが現在最もエキサイティングな時計メーカーのひとつであることを示す一例だ。印象的な時計づくりでありながら、伝統とデザインの範囲内に身を置いている。この組み合わせはスケルトン マイクロローターという文字どおりのもので、メゾンが美しくも新しいスケルトンムーブメントを生み出し、それをクラシックなサイズ&デザインのサントス デュモンに搭載した。「サントス デュモン」のコレクションを復活させてから4年、このモデルはこれまでで最も現代的なものとなり、現代のアルベルト・サントス=デュモンにふさわしい時計となったが、熱気球に乗ってやってはこれない。

同僚のペドロの17.25cmの手首に装着した「サントス デュモン」(私の小さい手首にも装着できる)。

カルティエ 「サントス デュモン 」スケルトン マイクロローター。ステンレススティール(Ref.CRWHSA0032)、イエローゴールド(Ref.CRWHSA0031)、ローズゴールド(Ref.CRWHSA0030)。いずれも31mm径、8mm厚。イエローゴールドは150本限定で、ベゼルにブルーラッカーを採用。いずれもカルティエの新手巻きCal.9629 MC。振動数は2万5200振動/時、パワーリザーブは約44時間。アリゲーターストラップ、ピンバックル。価格はすべて税込予価で、451万4400円(SS)、587万4000円(RG)、605万8800円(YG)。カルティエ ブティックにて発売中。

カルティエのウォッチメイキングの世界へよりディープに潜り込む。

「パイオニア精神」「フォルムを生み出すウォッチメイカー」「デザイン文化」「美を支える技術」と、それぞれテーマごとに区切られたスペースでカルティエのウォッチメイキングにおける重要な4つのビジョンについて理解を深めることが可能なこのイベント。なんとか時間を見つけてようやく来ることができたと、食い入るようにさまざまな展示や時計を見つめる方はもちろんのこと、会期中に幾度も足を運んだという熱心な方もこれで見納めと、最終日も多くの来場者が大いにイベントを楽しんだ。

外観はもちろん、会場のなかもカルティエを象徴する赤で統一。没入体験イベントにふさわしい非日常的な空間に。

フォトブースも用意されており、さっそく会場を訪れた読者の多くが思い思いに写真を撮り楽しんでいたようだ。

Room1. Pioneering Spirit/「パイオニア精神」

カルティエの黎明期、カルティエファミリーがいかにしてメゾンの進化を促したかに焦点をあて、実用的な意味で世界初となった腕時計「サントス」誕生の背景や「タンク」の誕生にかかわった3代目当主ルイ・カルティエの時計史における功績が紹介された。

Room2. Watchmaker of shapes/「フォルムを生み出すウォッチメイカー」
時計の内部にいるかのような設えが特徴的な​エリアに​約50本のカルティエ ウォッチを展示。​それぞれが持つフォルムのユニークさを垣間見ることがでる。このイベントのためにアーカイブピース「カルティエ コレクション」も来日し展示され、時代を超越したケースフォルムへの追求を体感。

​約50本のカルティエ ウォッチを展示されたRoom2。時計がズラリと並んでいたこともあり、多くの読者がこの場でトークを楽しんでいた。

普段お目にかかれないアーカイブピース「カルティエ コレクション」が展示されているということもあって、自身のカメラで写真に収める人も少なくなかった。

Room3. Culture of Design/「デザイン文化」

まるで宙に浮いているかのような展示が印象的だったこのエリア。「タンク」「サントス ドゥ カルティエ」「パンテール ドゥ カルティエ」「バロン ブルー ドゥ カルティエ」の4つのアイコンウォッチを通し、デザイン文化を意欲的に探求し続けるメゾンの基本理念を表現。

Room4. Technique Serves Beauty/「美を支える技術」

デザインと技術の融合、そして時計制作のかかわるサヴォアフェール(職人技)など、これまであまり語られてこなかったさまざまなエピソードを紹介。ウォッチメイカーであると同時にハイジュエリーメゾンであるカルティエが持つユニークさを知ることができる内容だ。

YouTube公開収録の会場スペースに入ってすぐに目に入って来たのは、“Cartier”ロゴの大きなオーナメント。

4つの展示スペースを抜けて、「コノサーズトーク」公開収録会場へ

 事前にこちらの記事でも案内していたとおり、最終日にはこの特別なイベント展示会場で、時計専門誌クロノス日本版 編集長の広田雅将さんと、HODINKEE Japan 編集長の関口 優がホストを務める動画コンテンツ「コノサーズトーク」第3弾の公開収録が読者の皆様を招待して実施された。

右から時計専門誌クロノス日本版 編集長の広田雅将さん、江口洋品店・時計店代表、江口大介さん、HODINKEE Japan 編集長の関口 優。カルティエのウォッチメイキングをテーマに話が弾む。

江口さんはヴィンテージのタンクに早くから注目し、日本における近年のタンクブームを牽引した。

 今回の公開収録では、スペシャルゲストとして江口洋品店・時計店代表、江口大介さんも登場。江口さんを交えながら、カルティエのウォッチメイキングを深掘りした。終始和やかな空気のなかで進んだ収録だったが、方や時計メディアとして、方やヴィンテージウォッチディーラーとして、さまざまな視点からカルティエのウォッチメイキングについて意見を交わした。収録後半には質疑応答の時間も設けられた。「いまはなくなっているがお気に入りだったモデルは?」「最初に買うのにおすすめのモデルとは何か?」という質問に、それぞれがその思いとともに回答。気になるコノサーズトークの詳細は後日公開予定なので、乞うご期待。なお、これまでのコノサーズトークの様子は以下の動画から確認して欲しい。

記事「カルティエが紡ぐ時計デザインとシェイプの進化がもたらす価値とは」(PR)

記事「サントスの名を持つ時計がたくさんあるので、実際に違いを理解してみることにした」(PR)

読者の皆さんは、どんなカルティエウォッチをつけているの?
 公開収録に参加いただいた多くの読者のリストショットは、もちろん押さえている。どうやら皆、熱心なカルティエファンのようだ。

カルティエスタッフのリストショット。さらりとつけた姿が様になっている。CPCPの「トーチュ」 ワンプッシュクロノグラフ イエローゴールド。

こちらは「タンク マスト」LM ソーラービート™搭載モデル。モノトーンのシックな装いに映える。

6時位置に日付がないこちらは、35.1mmの「サントス ドゥ カルティエ」MM、グラデーションブルーダイヤルだ。

日付がないので、左の方と同じく「サントス ドゥ カルティエ」MM。こちらはシルバー仕上げのオパラインダイヤル。

「タンク マスト」。LMサイズだろうか。ライトブルーのストラップが、なんとも爽やかな雰囲気を醸し出している。

こちらの女性がつけていたのは「パシャ C」。35mmと小ぶりだが、ブレスレット仕様でしっかりと存在感を主張している。

まさかの共演。ともに2022年の新作として発売された「サントス デュモン」。左はブラックラッカー仕上げが施されたベゼルとラグが特徴的なSSモデル、右は世界限定250本のベージュラッカーベゼルを持つピンクゴールドモデルだ。

これは大胆な文字盤デザインが目を引く、「タンク ソロ」LM インデックス アニメーション。ケースがオーソドックスなだけに文字盤の存在感が際立っている。

「タンク ルイ カルティエ」のピンクゴールド。サイズ感からするとLMだろうか。丸みのあるケースサイドの形状とダイヤルのギヨシェがポイントだ。

これはかなり珍しいのではないだろうか。アンティークの「タンク ルイ カルティエ」。特徴的なレイルウェイインデックスがなく、極めてシンプルなデザインだ。

ブラックラッカー仕上げが施されたベゼルとラグが特徴的な「サントス デュモン」のSSモデル。いち早く購入できたという幸運がうらやましい限り。

「サントス 100」。51.1×41.3mmという大ぶりなサイズとリューズガード付きのがっしりとしたケースが、「サントス」に力強い印象を与える。

「サントス ドゥ カルティエ」MM。シルバー仕上げのオパラインダイヤルとマッチした淡いトーンの素敵なコーディネートが印象的。

公開収録を終えて

 公開収録終了後は、会場を移してカルティエウォッチのタッチ&トライの時間も設けられた。短い時間ではあったものの、多くの読者が見て、聞いて、そして触って、じっくりとカルティエのウォッチメイキングの世界へと入り込むことができたのではないだろうか?

ヴィンテージの人気モデル、アンタークティックが細部まで復刻しつつオリジナルのプロポーション同様にスリム化した。

往々にして、ヴィンテージかモダンかという議論はほとんどが理論的なものだ。古い腕時計と新しい腕時計は明白に異なる魅力を持っており、どちらを買うべきかは、あなたがどの系統の時計病に悩まされているかによって決まる。

しかし、ニバダ グレンヒェンが新しい35mmのアンタークティックを、オリジナルのヴィンテージアンタークティックと一緒に見る機会を提供してくれたとき、長年の疑問を検証するチャンスのように感じた。ヴィンテージかモダンか? あるいはなぜ両方ではないのか?

11月、ニバダ グレンヒェンはアンタークティック 35mmモデルを発表した。新しいニバダ グレンヒェン アンタークティックの外観は、オリジナルのアンタークティックとよく似ている。ケースサイズは35mm径、厚さは10mm(風防を除くと7mm厚)だ。手首につけるとスリムな印象で、ラグからラグまでは42mm。ケースは完全ポリッシュで、そのインスピレーションを模したファセットラグが付いている。手首の大きさによっては小さすぎるかもしれないが、ニバダ グレンヒェンにはすでに、大振りなスーパーアンタークティックが存在する。私にとって今回アップデートされた35mmは、ブランドが2020年に再開したと同時にリリースした最初のアンタークティックよりも、はるかに成功していると感じる。その前のバージョンはモダンな時計になろうとしすぎて、その結果、すでに市場に出回っているほかの多くの時計と同じように見えてしまったのだ。

ニバダ グレンヒェンは今、見せかけを取り払い、本質的にオリジナルのアンタークティックを細部まで再現した復刻版をつくりあげた。これは約36時間パワーリザーブを備えた、シンプルな手巻きムーブメント、ランデロン21のおかげでもある。自動巻きムーブメントより実用性が劣るのは間違いないが、手に巻いたときの感触を重視した上でのチョイスだ。幸いなことに薄くて軽量ながらも存在感を放ち、その選択は成功したようだ。モダンで完全に実用的なフィールドウォッチが欲しい人は、ほかで試せばいい(Apple Storeを覗いてみるのはいいかもしれない)。ニバダ グレンヒェン アンタークティックは、忠実さのために機能を犠牲にした復刻モデルであるが、それを恥じることはない。私はその認識力を高く評価している。

ニバダ グレンヒェン アンタークティック 35mmは、ホワイト、エッグシェル、ブラックのいずれかのダイヤルオプションを提供しており、いずれもホワイトまたはベージュのルミノバ夜光を採用している。ブランドから送られてきたのは、ベージュ夜光が入ったホワイトバージョンだった(どちらかと言えば“フォティーナ”仕様)。数字はまぎれもなくアール・デコスタイルで、あらゆる方向に光を反射するファセットアローがそれを引き立てている。夜光マーカーもオリジナルにインスパイアされたもので、典型的なドットではなく、わずかに角度のついた線が配されている。

スマイルアンドウェイブ(笑顔で手を振って!)

新旧ともにスリムな形状をしている。

フォティーナ夜光が付いたエッグシェル文字盤か、あるいはホワイト文字盤にホワイト夜光の組み合わせのほうがよかったかもしれない。真っ白な文字盤に対してベージュ夜光がややマッチしていない。アンタークティック(南極)と呼ばれる時計を、スノーホワイトダイヤル仕様にしたというアイデアは大好きだが、私にとってはエッグシェルこそが、この時計のヴィンテージ志向を最もよく表していると感じる。

850ドル(日本円で約12万5000円)という価格は、競合製品と比較しても妥当だろう。スペック上、カーキ フィールド メカニカル(税込8万5800円)が最も自然な比較のように思えるが、アンタークティックは従来のフィールドウォッチとは違った雰囲気がある。

南極の風より涼しい
新しいアンタークティック 35mmは、1950年代のニバダ グレンヒェンの同名作品からインスピレーションを得ている。50年代半ば、米国は“ディープフリーズ作戦”と呼ばれる、一連の南極探査ミッションを開始した。リチャード・バード(Richard Byrd)提督がミッションを指揮しており、彼の手首にはニバダ グレンヒェン(クロトン)のアンタークティックがあった。次のような広告でまったく同じ時計を目にすることができる。

アンタークティックは頑丈で防水性があり、耐衝撃性もあった。それでいて35mm径だ。ヴィンテージのアンタークティックは現代の例と驚くほど似ている。ほんのわずかにアップデートが加えられた、完全復刻モデルである。リューズは最新版のほうが若干操作性が高いが、ヴィンテージアンタークティックは自動巻きムーブメントを搭載していたため、頻繁に巻き上げる必要はなかった。

新しいアンタークティックの真っ白な文字盤はシンプルさが魅力的だが、ヴィンテージは文字盤にこそ魅力がにじみ出ている。これはともにいい部分がある。誰かの物語を手首につけているのはそれだけでクールだし、あるいは思い出を新たに刻むことができるのもいいかもしれない。もちろん、ヴィンテージウォッチを実際に身につけて行動できるのか、あるいは身につけるべきなのかという不安もつきまとうだろう。

価格について、ニバダ グレンヒェンのギヨーム・ライデ(Guillaume Laidet)氏によると、状態にもよるものの600ユーロから1000ユーロ(日本円で約9万5000~15万9000円)でヴィンテージアンタークティックを見つけることができるという。ただ素晴らしいものを待つ必要はあるかもしれない。

結局のところヴィンテージかモダンか
“ヴィンテージ”、“モダン”コレクターの区別は、かつてないほど時代遅れ感がある。“真の”ヴィンテージの定義が何なのか(あるいは誰が決めるのか)ますますわからなくなってきているし、“ネオヴィンテージ”ウォッチへの関心も高まっている今、それが重要なのかどうかもわからない。最近のコレクターが求めているのは、1年前のものであれ51年前のものであれ、しっかりとした作りの時計なのだ。

ギヨーム・ライデ氏が2020年にニバダ グレンヒェンをリニューアルして以来、ブランドの伝統を生かした多くの商品や限定モデルをリリースしている。これはエクセルシオパークやヴァルカンといった、ほかの“ゾンビ”ブランドで行ってきたのと同じことだ。私が注目するリリースは、オリジナルに最も近い色合いのものであることが多い。誰かがブランドの歴史を直接的に、そして謝罪なしに堂々と描いているのを見るのは楽しい。

正直なところ、この価格帯のモダンなフィールドスタイルウォッチを買うとしたら、スタジオ・アンダードッグのフィールドコレクションのような、遊び心のあるユニークなフォルムのものにお金を費やすだろう。しかし、それらは私が現代の時計に求める基準だ。代わりに、愛するヴィンテージモデルの忠実な復刻版を望む人もきっといるだろう。この2点を比較するのはフェアではないかもしれない。というのも現在では両者ともに十分すぎるほどの伸びしろがあり、さらにそれ以上の余地があるからだ。

ニバダ グレンヒェン アンタークティック 35mmは、ニバダ グレンヒェン公式ウェブサイトにて12月23日まで予約受付中。35mm径×10mm厚(ラグからラグまでは42mm径)、316Lステンレススティール。ラグ幅は18mm(ストラップは16mmまでテーパーがかっている)。50m防水、ダブルドーム型サファイア風防。ムーブメントは手巻きCal.ランデロン21、2万8800振動/時、約36時間パワーリザーブ。ホワイト、エッグシェル、ブラック文字盤。ホワイトまたはベージュ夜光。質感のあるレザーストラップ。価格は850ドル(日本円で約12万5000円)。

プロパイロットXに万華鏡のような色彩をもたらした、最新のレーザー加工。

オリス プロパイロットX キャリバー400 “レーザー”が、ダイヤルに光のショーを演出する。
2022年にプロパイロットXコレクションを発表して以来、オリスはそれをとことん楽しみ尽くしてきた。その初代ラインナップのなかで、私の個人的なお気に入りは鮮やかなサーモンダイヤルだった。オリスは今年プロパイロットX カーミットを発表し、鮮やかなグリーンダイヤルのデイト窓に月に1度現れる、カエルの笑顔をフィーチャーした。そして今回、オリスはドバイ・ウォッチ・ウィークに合わせ、チューリッヒの研究所との共同研究によるレーザー技術を駆使し、これまでに見たことのないダイヤルを備えたプロパイロットX “レーザー”を発表した。

まずは最初にそのダイヤルの話から。オリスによると、角度によって光を受けて色が変化するダイヤルを作るために、製造工程上で斬新なレーザー技術が使われている。オリスはこの加工について、光をさまざまな組成に分割する表面加工を施すことで、時計を見る場所によって虹のような効果を生み出すと説明している。赤の光波は打ち消され、緑と青の光波は反射されることで、ダイヤルのクールなグラデーションが生まれるのだ。ロゴとインデックス、ミニッツトラック、ダイヤル上のテキストにもレーザー加工が施され、立体的な効果を与えている。

ダイヤル以外に目を向けると、“レーザー”はプロパイロットXのおなじみのフォルムに、39mm径のチタンケースとそれにマッチするブレスレットを採用している。内部にはオリスのマニュファクチュールキャリバー400が搭載され、5日間という驚異的なパワーリザーブを誇る。2020年にキャリバー400を発表した当初は、性能に関する不満や批判もあったが、現時点ではすべて解消されているようだ。そして今回の発表では、ちょっとした微調整が加えられた。

オリス プロパイロットX “レーザー”の希望小売価格は81万4000円(税込)で、HODINKEE Shopを含むオリス正規販売店で購入可能だ。

このチタンダイヤルはブルーからグリーン、パープルまでの美しいグラデーションを描くが、オリスの説明によると、実はダイヤルには色の顔料は使われていない。その代わり、レーザー処理によってチタンに変化が与えられており、反射して戻ってくる光の波が可視光線のスペクトルの特定の部分だけを含むようにしている。さらに、“きらめく”レインボー効果を生み出すために、その他の処理も加えられている。

私はまだこの時計を実際に見たことはないが、優れたダイヤルを作るために採用されたエキサイティングな技術が施されていることは間違いなさそうだ。しかも、パイロットウォッチを完璧にモダンにアレンジしたプロパイロットXに自然とフィットするような仕上がりだ。こうしたダイヤルのデザインをとるのは、オリスが6時位置のデイト窓を廃止する絶好のタイミングでもあった。特に、あるカエルがそこから顔を出していたときなどはあまり気になったことはなかったが、これはシンプルな3針時計にふさわしいダイヤルであり、これ以上のものはなさそうに思える。

新しい“レーザー”の希望小売価格は81万4000円(税込)で、スタンダードダイヤルのモデルは69万3000円(税込)だ(“カーミット”は税込72万6000円で、カエルのバッグがついてくる)。レーザーテクノロジーが駆使されているためにこの値段でも十分と思えるが、約5000ドルというのは現在極めて競争力のある価格帯である。ともあれ、手首の上でレーザーショーを楽しみたい人たちにとって、新たな選択肢ができたことは素晴らしいことだ。プロパイロットXが、漫画のカエルであれ、最先端のレーザーであれ、オリスからの実験的の提案であるならば私は大歓迎だ。

基本情報
ブランド: オリス(Oris)
モデル名: プロパイロットX キャリバー400 “レーザー”

直径: 39mm
厚さ: 12mm
ケース素材: チタン
文字盤色: レーザー加工が施されたチタン
夜光: 針にブラックのスーパールミノバ
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: チタン製ブレスレット

oris propilot caliber 400 movement caseback
ムーブメント情報
キャリバー: オリス キャリバー400
機能: 時間、デイト表示
直径: 30mm
パワーリザーブ: 120時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 21
クロノメーター認定: なし、オリスは1日あたり-3/+5秒の精度と公表している
追加情報: MyOris登録で10年の延長保証

価格 & 発売情報
価格: 81万4000円(税込)

ヴィンテージブライトリングは簡単にふたつのカテゴリに分類できる。

ナビタイマー・コスモノートシリーズは非常に素晴らしく、ブライトリングがかつて手がけたほかの製品を圧倒している。彼らのトップタイムは手ごろでいい作品だった。彼らのワールドタイマーは超クールだったし、ラトラパンテのデュオグラフはさらにクールだった。しかし、我々のお気に入りのヴィンテージブライトリングはまったく売れることはなかった。

カナダ空軍(RCAF)と国防総省(DND)は長年にわたり、オメガ、レマニア(他社のためにムーブメントを製造していた)、ブライトリングに、ワンプッシュのクロノグラフを注文する習慣があり、それはパイロットや軍人に与えられた。しかし、カナダ人は合理的で実利的な集団なので、普通の軍人がオメガやブライトリングのクロノグラフ(どちらも当時は有名で評判の高い高級時計メーカーだった)を与えられたと知ったら、それを売りたくなるかもしれないと考えた。また軍人の友人や知人、学友の敵がオメガやブライトリングのような高級腕時計を手首につけているのを見たら、それを盗みたくなるかもしれないとも。

そのため、オメガとブライトリングの両社は、RCAFや国防総省のために無署名の文字盤を備えたこれらの時計を製造していた。こうすることで、一般人(兵士や民間人)は自分が見ている時計が何なのかを知ることができない。では、例えば上の写真の時計が実際にブライトリングであることをどうやって知ることができるのだろうか?

その答えはムーブメントにある。

そしてケースはこのようになっている。

ヴィンテージムーブメントに詳しい方なら、上のムーブメントはバルジュー23をモノプッシャーに改造したものだとわかるだろう。このムーブメントは、優れたミリタリーウォッチのように、30分積算計とハック機能付き秒針(スモールセコンド)を特徴としている。裏蓋には国防総省オリジナルの発行番号と、1967年に製造されたことを示す、“/67”で終わるシリアル番号が記載されている。

これらの腕時計は、オメガとブライトリングの両方のバリエーションで、ますます人気と価値が高まっている。その理由はいくつかある。それは間違いなく本物のミルスペックウォッチであるということ、伝説的な時計メーカーの製品であること、そしてオメガとブライトリングがそれぞれの歴史のなかでワンプッシュクロノグラフをほとんど製造していないということだ。サインのない時計はスリーパー(大穴)であり、オリジナルの軍仕様に近いので、最もクールだというのが我々の意見だ。これらの時計のいくつかは、後にケースバックに“Surplus”を意味する“S”と刻印され、文字盤に“Omega”、“RCAF”、“Breitling”と書かれたモデルが作られていた。昨年11月、ジュネーブ・クリスティーズでは、オメガRCAFのワンプッシュモデルが、1万4000ドル(当時の相場で約116万円)以上で落札されている。

そのため地元のフリーマーケットやヴィンテージウォッチ店、あるいはeBayなどで、文字盤に完全に何も書かれていないモノプッシャークロノグラフを見たのなら、それは軍の歴史を持つ非常にクールで珍しいオメガやブライトリングかもしれない。