“時が止まったロレックス”をとおして振り返る9.11

ニューヨーク市にあるナショナル・セプテンバー11・メモリアル&ミュージアムには、時が止まったロレックスが展示されている。その溶けたケースは、オラクル社のアカウント・マネージャーであったトッド・ビーマー(Todd Beamer)のしわくちゃの名刺とともに展示されている。この時計の秒針は23年間進むことなく、日付窓にはただ“11”と表示されているだけである。

2001年9月11日、4人のテロリストがユナイテッド航空93便をハイジャックし、最終的にペンシルベニア州シャンクスヴィル近くに墜落させ、乗客全員が命を落とした。テロリストたちはサンフランシスコ発のこの便をワシントンD.C.に向けて飛行させ、目的地を変更しようとしていた。その目的地は多くの人がアメリカ合衆国議会議事堂だと考えており、彼らは世界貿易センターやペンタゴンに飛行機を突入させたのと同様に、甚大な被害と死傷者を出すことを企んでいた。しかしトッド・ビーマーとほかの乗客たちはテロリストに立ち向かい、その結果、飛行機はペンシルベニア州で墜落することとなった。乗客たちの勇敢な行動によってアルカイダの計画は阻止されたものの、ユナイテッド航空93便に乗っていた全員が命を失った。

ハイジャック犯が飛行機を制圧したあと、ビーマーは機内から妻に電話をかけようとしたが、代わりに電話オペレーターに繋がった。オペレーターは、ビーマーとほかの乗客たちがハイジャック犯に立ち向かう計画を立てているのを聞いた。

「準備はいいか? さあ行こう」。これこそビーマーが電話越しに残し、今や有名となった最後の言葉である。

9月11日から10年以上が経過し、ビーマーの時計はミュージアムの所蔵品となった。それはあの日回収された何百もの品々や遺物のなかにある。そのなかには時計や時間に関する物も含まれている。たとえば、同じ日にトーマス・キャナバン(Thomas Canavan)がツインタワーに入った際につけていた時計についても以前紹介している。

ビーマーの時計はツートンのロレックス ターノグラフで、タペストリーダイヤルを備えていた。このモデルはサブマリーナーよりも先に登場し、1950年代初頭にブランド初の回転ベゼル付きモデルとして発表された。この時計は若くして成功を収めたビーマーを象徴するものでもあった。当時、32歳にしてオラクル社のアカウント・マネージャーだった彼は、ユナイテッド航空93便に搭乗する前日、イタリア旅行から帰国したばかりだった。

現在、そのターノグラフは風防を失い、砕け、焼け焦げ、時が止まったままの状態でナショナル・セプテンバー11・メモリアル&ミュージアムに展示されている。これはビーマーがほかの乗客とともに立ち上がり、英雄へと導いたその瞬間を物語っている。

ビーマーの物語は広く知られており、2014年に初めてニューヨーク・タイムズ誌が報じている。その後、ウォッチズ・オブ・エスピオナージ(Watches of Espionage)の新しいYouTubeチャンネルでこの物語を追悼している(購読をおすすめする)。9月11日から23年目のこの日、ぜひ両記事をご覧いただきたい。

カーキ フィールドにエンジニアド ガーメンツとのコラボレーションモデルが登場。

これまでもN.ハリウッドやショット、ポーターといったブランドとのWネームを発表してきたハミルトンが、この10月17日(木)にNY発のファッションブランドであるエンジニアド ガーメンツとのコラボレーションモデルをリリースする。エンジニアド ガーメンツは1988年に設立したセレクトショップをメイン業態とする日本の会社、ネペンテスから1998年に発足したブランド。企画、生産はニューヨークで行われており、デザイナー・鈴木大器(だいき)氏のもとテーラーリングにワーク、アウトドア、そしてミリタリーに根差したコレクションを展開している。クラシックなアメリカンスタイルを下地としたシンプルなクリエイションながらディテールは細部まで計算され尽くされており、そのものづくりの姿勢が“巧みに設計された洋服(エンジニアド ガーメンツ)”という名前の由来になっている。そんなエンジニアド ガーメンツとのコラボモデルのベースには、カーキ フィールドシリーズが選ばれた。その名も、カーキ フィールド チタニウム エンジニアド ガーメンツ リミテッドエディションである。

本作はカーキシリーズの名前を冠したフィールドウォッチだが、その顔立ちは現在展開されているどのモデルとも微妙に異なる。ベージュのフォティーナ夜光やサンドブラスト加工のケースなど、ヴィンテージのミリタリーウォッチを思わせるディテールはこのコラボモデルには見られない。ブラックのダイヤルに対してメリハリの効いた太いアワーマーカーはグッとモダンな印象。ブラッシュ仕上げが施されたチタンケースもインダストリアルさを強調しており、耐久性、堅牢性の高さを主張している。しかしその一方でケース径は36mm、厚さは10.85mmとサイズ感は小振りだ。

ムーブメントは、ハミルトンの3針モデルではおなじみのCal.H-10。約80時間のパワーリザーブとニヴァクロン®︎製ヒゲゼンマイを有する同ムーブメントは、裏蓋にあしらわれた半円状の窓からその姿を見ることができる。また裏蓋にはコラボの証であるブランドロゴと、本作が1999本限定(エンジニアド ガーメンツの創業年にちなんでいる)である旨が刻印されている。

カーキ フィールド チタニウム エンジニアド ガーメンツ リミテッドエディションは、10月17日(木)より16万9400円(税込)で販売される。また、時計は外出時の持ち運びにも便利なラウンドジップ式のウォッチケースに収められている。

ファースト・インプレッション
エンジニアド ガーメンツのコラボと聞くと、ベースとなるアイテムに+αのひねりを加えるイメージを個人的には持っている。レザーシューズで複数種類の革を組み合わせてみたり、左右非対称にしてみたり、アウターをコンバーチブルにしてみたりなど、その表現方法も多彩だ。同じ時計だと、ダイヤルを左右反転させたモデルを思い出す人もいるだろう。そんなブランドがコラボ相手だけに、ハミルトンインターナショナルCEOのヴィヴィアン・シュタウファー(Vivian Stauffer)氏からこのモデルを見せてもらったときは驚いた。まさか、こんなにシンプルな時計が出てくるとは思っていなかったのだ。

カーキ フィールドをコラボレーションのベースとして選んだのは、鈴木大器氏だ。ファッションの分野で人気が高いというベンチュラやPSRなどではなく、ハミルトンのなかでも明確なバックボーンを持つカーキを手に取ったところには、アメリカンスタイル、そしてミリタリーにインスピレーションを得ているブランドとしての共感があったという。そのためか、本作には鈴木氏のこだわりが細部まで行き届いている。彼は今回のコラボにあたり、「現代的でありながら時代を超越」し、ハミルトンのカーキとエンジニアド ガーメンツの真髄を体現する理想的なフィールドウォッチを求めた。カーキ フィールドに特徴的なドーム型風防をフラットに変更したり、軽量で機能的なチタニウムを素材に使用したりといった点は、まさにモダンさの現れだろう。

そのように現代的なルックスを模索する一方で、本作にはフィールドウォッチとしてのカーキ フィールドへのリスペクトも込められている。それが表現されているのが、無駄を削ぎ落として視認性を優先したというダイヤルのデザインと、カーキのオリジナルモデルにならった36mmというサイズ感だ。ハミルトンはインターナショナルな需要に応える目的から、40mm径前後のリリースが多い。通常のモデルではなかなかお目にかかれないこのサイズ感は、ユニセックスな魅力に加え、本作に小径のカーキを求める時計愛好家に刺さる魅力を添えている。

「各々のブランドが個性を出そうと衝突してしまうことが、コラボレーションを行ううえではよく見られます。しかし、エンジニアド ガーメンツとのプロジェクトは非常にスムーズに進行しました」とヴィヴィアン氏は語る。これは古きよきアメリカをバックボーンに持つカーキ フィールドという時計をとおして、両ブランドが価値観を共有し、同じゴールを見据えて進んだ結果だと思う。エンジニアド ガーメンツとハミルトンのフィロソフィーが巧みに融合した今回のデザインについて、とても気に入っているとヴィヴィアン氏は満足げに話してくれた。

僕個人の所感を述べると、本作はコラボモデルという点を置いても非常に実用的で長く愛用できるプロダクトになっていると思う。「ムーブメントが入っているか不安になります」とヴィヴィアン氏がにこやかに語る軽量さに加えてチタニウムならではの堅牢さ、そしてミニマルで視認性の高いダイヤルとツールウォッチに求められる要素が揃っている(防水性能も10気圧だ)。加えて、カーキ フィールドシリーズへのリスペクトも感じられる。本作はエンジニアド ガーメンツ流の、モダンフィールドウォッチである。直近ではマーフウォッチのホワイトダイヤルなども話題に挙がっているが、直近のハミルトンのリリースでは個人的に本作を高く評価したい。

基本情報
ブランド: ハミルトン
モデル名: カーキ フィールド チタニウム エンジニアド ガーメンツ リミテッドエディション

直径: 36mm
厚さ: 10.6mm
ケース素材: チタニウム
文字盤色: 外周にレコード引きが施されたサンレイ仕上げのブラックダイヤル
インデックス: プリント
夜光: ニッケル時・分・秒針にスーパールミノバ®︎を塗布
防水性能: 10気圧防水
ストラップ/ブレスレット:チタニウムブレスレット

時計は持ち運びにも便利なウォッチケースに入れて提供される。
ムーブメント情報
キャリバー: H-10
機能: 時・分・秒表示
パワーリザーブ: 80時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万1600振動/時
石数: 25石
クロノメーター認定: なし

価格 & 発売時期
価格: 16万9400円(税込)
発売時期: 10月17日(木)※先行発売
限定:世界限定1999本

今注目しているスモールブランドの新作時計5選

“マイクロブランド”でも何でも呼び方は自由だが、ワールドタイマーからダイバーズウォッチまで、彼らは感動的な時計をつくり上げている。

2017年、私はシカゴのダウンタウンから電車に乗って北へ30分ほど行き、自分にとって初めての“マイクロブランド”ウォッチであるオーク&オスカーの新作、“オルムステッド”を購入した。12月のシカゴらしい寒くてどんよりとした日で、オーク&オスカーの狭苦しい本社に座り、ウィスキーを片手にふたりのチームとおしゃべりしながら、新しい時計のブレスレットのサイズを調整してもらっていたのを覚えている。

あれはもうかなり前のことだが、今でもこの時計がスモールブランドやマイクロブランドの魅力を象徴しているように思える。そのあとこの市場は拡大の一途をたどり、すべてを追いかけるのがほぼ不可能になっている。こうしたブランドの優れたデザインや仕様の時計を見かけない日はほとんどない。

過去20~30年のあいだに、これらマイクロブランドは、グローバルなサプライチェーン(多くは中国で製造されるが、必ずしもそうとは限らない)を活用し、小売チャネルを介さずにオンラインで消費者に直接販売する手法や、セリタやミヨタ製の手ごろで手に入れやすいムーブメントを使うことで成熟してきた。多くは少量生産や予約注文モデルで展開されており、このような要因によって、熱心な愛好家から手っ取り早く稼ぎたいと考える人まで、誰もが時計を製造し販売できる環境が整っている。優れたブランドは興味深く革新的なデザインを生み出し、そのなかには技術革新も増えつつある。

ロリエ、 エコ/ネイトラ、マリンの新製品。
2018年、ジェームズはマイクロブランドの台頭について記事を書き、レイヴン、ハリオス、アウトドローモといった第1世代のパイオニアたちを取り上げた。
「品質や誠実さよりも、新しさや安さに対する傾向がある」と、アウトドローモのブラッドリー・プライス(Bradley Price)氏は当時語った。「その巻き添えで、一部の時計バイヤーの頭のなかで、スモールブランドがひとまとめにされてしまうが、実際はもっと複雑だ」

新しいブランドがほかのブランドの消滅とほぼ同時に現れるような状況は、今でも変わっていないと言えるだろう。

数年後、ローガン・ベイカーは、前述の要因を巧みに利用し続ける時計製造における新たな“ミドルクラス”についての記事を執筆した。米国(ブリュー、モンタ)をはじめ、英国(フェラー、アンオーダイン)、東南アジア(ミン、ゼロス)、そのほか各地で、こうしたブランドはしばしばワクワクするような時計をつくり出しており、多くが成功を収めている。少なくとも数社が、年間売上高が1000万ドル(日本円で約15億3410万円)を超えていると話している。

これらスモールブランドは多くの場合、大手の伝統的なブランドが作れない(またはつくろうとしない)時計を製造している。これは、愛好家による愛好家のための時計であり、大抵は少人数のチームが運営全体を支えている。そうしたブランドが集まる場に、私はいまだに刺激を感じている。先週、ニューヨークで開催されたWindup Watch Fair(ワインドアップ・ウォッチ・フェア)を見て回り、いくつかのブランドに感銘を受けたため、ここで私のお気に入りを5つ(プラスおまけでもうひとつ)紹介しよう。

少なくともそのうちのいくつかは実際に試す予定だ。とくにもっと見たい時計があればコメントで教えて欲しい。また、私が見逃しているスモールブランドやマイクロブランドがあれば(おそらくたくさんあるだろう)それも教えて欲しい。

ロリエ オリンピア クロノグラフ
ロリエは2017年以降、20世紀半ばのデザインにインスピレーションを受けた手ごろな価格の時計をつくり続けている。このニューヨークのブランドの最新作は、1960年代の伝統的なレーシングクロノグラフを現代風にアレンジしたオリンピアだ。オリンピアにはどこか懐かしいデザインの趣があるが、ソフトなレッドとブルーのアクセントが今っぽさを加えている。これはある特定の時計へのオマージュではなく、1960年代という時代そのものへのオマージュだ。この種の時計でありがちな“本物が欲しくなる”ということも、ロリエ オリンピアには当てはまらない。このスタイルはそれ自体で十分に満足感を与えてくれる。

私の6.3インチ(約16cm)の手首に装着したロリエ オリンピア クロノグラフ。

オリンピアの316Lステンレススティール製ケースは39mm×13.8mm(ラグからラグまで46mm)で、その厚みのうち2mmはドーム型のヘサライト風防によるものだ。セイコーのNE88自動巻きムーブメントを搭載し、ねじ込み式リューズにより50mの防水性を備えている。短時間ではあったが、ワインドアップの際ロリエに話を聞いたところ、以前のクロノグラフに使用されていたシーガル製ムーブメントに比べ大幅に改善されたとのことだ。

オリンピア クロノグラフの価格は900ドル(日本円で約14万円)だが、そのフィット感と仕上げは非常に印象的だ。しっかりしたエンドリンク、ネジで固定されたブレスレットリンクを備え、ブレスレットは手首に自然に馴染む。クロノグラフのプッシュボタンの操作感も満足できるもので、触感がしっかり伝わる。コラムホイールの垂直クラッチに期待される通りかもしれないが、この価格帯での提供はうれしい驚きだ。

ソーシャルメディアへの投稿は控えめだが、ロリエは製品そのもので語らせ続けており、それがこのブランドで私が最も気に入っている点だ。

マリン インストルメンツ スキンダイバー OS “ポーラー”
ニューメキシコ州のデザイナー、ジャスティン・ウォルターズ(Justin Walters)氏は、2021年にマリン インストルメンツを創業した。多くのマイクロブランドと同様に、マリンもミッドセンチュリーの時計からインスピレーションを受けているが、ほかのブランドよりもモダンな印象を与える。マリンのスキンダイバーはウェットスーツを着用せずに潜水するために設計された、60年代の時計にヒントを得ているが、そのデザインはクリーンで現代的だ。エルジンやウォルサムに通じる一方で、アップルやノモスのような雰囲気もある。

スキンダイバー OS “ポーラー”は、ブラックPVDコーティングが施されたベゼルと、オレンジの先端が特徴的な秒針に対して、真っ白なダイヤルが強いコントラストを成しており、有名な“ポーラー”ウォッチをさりげなく意識していることは間違いない。サテン仕上げのSS製ケースのサイズは39mm×11.5mm(ラグからラグまで48mm)で、手首につけるとやや平らな印象を受けるが、これは伝統的なスキンダイバーの形状を踏まえれば予想どおりだろう。内部には標準的なセリタ製の自動巻きSW200-1ムーブメントが搭載されている。ポーラースキンダイバーはブラックラバーストラップ付きで販売され、さらに追加でNATOスタイルのストラップが付属している(個人的にはマリンのビーズ・オブ・ライスブレスレットに装着してもいいと思う)。この丈夫でしっかりとつくられた時計は1095ドル(日本円で約17万円)で手に入る。なおマリンのウェブサイトで直接購入できるほか、オンライン小売業者のハックベリーでも取り扱いがある。

ボーナスピック: アルテラム ワールドタイマー
ボーナスピック! 2022年にHODINKEEが初めてマリン インストルメンツを取り上げた際、私はすぐにこのブランドのデザインに引かれたため、創業者ジャスティン・ウォルターズ氏が新たに立ち上げた別ブランド、アルテラム・ウォッチ・カンパニーの存在を知り、とても興奮した。アルテラムはデビュー作として“ワールドタイマー”を発表したばかりだ。この時計は、世界を旅するための複雑な機構をミニマルかつ無骨なデザインで表現している。

アルテラムのワールドタイマーは、ブラスト仕上げとサテン仕上げが施された38.5mm×10.5mmのSS製ケース&ブレスレットを特徴としている。ワールドタイム機能にはセリタSW330-2 GMT自動巻きムーブメントが採用され、ウォルターズ氏はスイスのメーカー、ロベンタヘネックスと提携してこのワールドタイマーを製作した。初回生産は100本限定で、価格は2850スイスフラン(日本円で約50万円)。時・分“針”は回転ディスクに固定され、外周リングの回転ワールドタイムディスクは、2時位置の追加リューズで操作できる。

アトリエ・ウェン パーセプション(チタンまたはタンタル製)
タンタル製パーセプション。

私がアトリエ・ウェンのパーセプションを初めて体験したのは2022年のことで、そのころ、この誇り高き“メイド・イン・チャイナ”ブランドがHODINKEEで紹介された。ブレスレット一体型のこの時計は、当時優れていたものの、まだ改良の余地があった。つまりそのレビューでは腕毛が少々犠牲になったわけだ。

それ以降、このブランドは大きな進化を遂げてきた。今年、チタン製パーセプションの標準生産バージョンが発表された。パーセプションのストーリーはそのギヨシェ模様の文字盤から始まる。最近、職人がこれらの文字盤を仕上げるのにどれほどの時間がかかるのかについて、ソーシャルメディアで議論が巻き起こったが、その美しさは否定できない。特にパープルダイヤルは際立っている。

文字盤の仕上げに加え、アトリエ・ウェンはパーセプションのラインにチタンとタンタルを加えた。タンタルのブレスレットをつくるのは容易ではないため、これは目覚ましい進歩と言える。重厚な金属を手にしたとき、その技術の成果を実感できる。

「タンタルは粘着性が高く、工具がすぐに壊れてしまうんです」と、アトリエ・ウェンの共同創業者であるロビン・タレンディエ(Robin Tallendier)氏が説明してくれた。「タンタルを磨いたりサテン仕上げにしたりすると、工具が傷んでしまいます。特に難しいのが穴開けで、ブレスレットをつくるには避けて通れない工程です」

チタン製パーセプションも、より高価なチタン製スポーツウォッチに匹敵する仕上がりで侮れない。アトリエ・ウェンはチタン製パーセプション(3588ドル、日本円で約55万円)の予約注文を締め切ったばかりだが、まもなくタンタルモデルの少量生産が開始され、さらにコラボレーションも計画されている。

オーデマ ピゲのチャレンジは、新たな才能とのタッグで複雑時計と現代アートを融合させた。

キャラクターウォッチの歴史は古く、1902年に出版されたアメリカの漫画マスター・ブラウンの顔をダイヤルに描いた懐中時計が発見されている。そして1933年、インガソール社がミッキーマウスの腕を針としたキャラクターウォッチを開発。以降、キャラクターウォッチは、ダイヤルの飾りである静止画タイプとメカニズムに取り込んだアニメーションタイプとが次々と登場していく。それらの大半はチープなモデルであったが、1980年代以降、高級時計の表現手段としてさまざまなキャラクターとのコラボレーションが試みられるようになった。

オーデマ ピゲは2017年からマーベルと長期的なパートナシップを模索し、2021年、メゾン初のキャラクターウォッチを世に送り出した。それは静止画タイプでもアニメーションタイプでもなく、キャラクターを立体的なモニュメントとして設えダイヤルに配した、まったく新しい表現であった。2023年には、その第2弾が登場。そして今年誕生したオーデマ ピゲの3Dキャラクターウォッチでは、現代アーティストが生み出したキャラクターの世界観をメカニズムと融合させるという、新たな試みに挑んだ。

オーデマ ピゲが目指すのはより良いものを成し遂げ、まだ存在しないものを創ること。そのための手段のひとつが、伝統と前衛の共存であるという。伝統はメゾンに息づく。そして前衛は、さまざまなカルチャーとともにインスピレーションを与え合うことで新たな創造の領域を得てきた。

マーベルとの提携では、前述したようにそれまで存在しなかった3Dキャラクターウォッチが生み出された。それをさらに発展させるため、メゾンが新たなパートナーとして選んだのは、世界的な人気を誇る現代アーティスト、KAWSであった。そのコラボモデルとなる「ロイヤル オーク コンセプト トゥールビヨン “コンパニオン”」のダイヤルは、その名の通り彼の代表作であるコンパニオンの立体的なモニュメントで埋め尽くされている。

ミッキーマウスから着想を得たと言われる、顔をスカルに仕立て目を“××”としたキャラクターはフィギュアでも人気で、グラフィックとしてもさまざまなブランドで用いられてきた。その上半身をオーデマ ピゲはチタンを使って立体的に創り上げ、サファイアクリスタル風防に手を押し当てて、外側を好奇心いっぱいにのぞき込んでいるかのように配した。そしてその胴体の真ん中は丸く開口され、トゥールビヨンの動きを見せている。

これまでの2作のマーベルウォッチは1作目のブラックパンサーがフライングトゥールビヨン、2作目のスパイダーマンがトゥールビヨンであったが、いずれもキャラクターとは切り離され、関連性を強く主張していなかった。それが今回、胴体に組み込まれたのは、KAWSには“解剖シリーズ”という作品群があるから。つまり機械式時計の心臓部を、解剖されたコンパニオンの心臓に見立てたのだ。これは、KAWSの世界観とメカニズムとの幸福なマリアージュだと言えよう。

ロイヤル オーク コンセプト トゥールビヨン “コンパニオン”

Ref.26656TI.GG.D019VE.01 価格要問合せ(250本限定)

チタンケース、43mm径、17.4mm厚。手巻きCal.2979搭載、約72時間パワーリザーブ。10気圧防水。

サンバースト模様のチタンダイヤルプレート上に、グレートーンのチタン製ミニチュア KAWS “コンパニオン”。サンドブラスト仕上げのライトグレーチタンインナーベゼル、暗闇でブルーに発光する蓄光加工を施したチタンのペリフェラル式ロイヤル オーク針とアワーマーカーを採用。

また過去2作のモニュメントと比べ、ペイントを最低限にしているのも新たな試みである。色は、ライトとダーク、2つのグレーのみ。そしてサテン仕上げとサンドブラスト加工によるコントラストの違いで立体感を際立たせ、コンパニオンのフォルムを純化してみせた。さらにケースも同じチタン製として異なる仕上げを組み合わせ、グレーのトーン・オン・トーンによる静謐な外観を創出している。

ロイヤル オーク コンセプト トゥールビヨン“コンパニオン”を見る

KAWSのクリエイティビティを全身で表現

キャラクターの純化はメカニズムでも図られた。ご覧のようにダイヤルを埋め尽くすコンパニオン上には、針がない。代わりにその外側で、分・時の各指標が回転するペリフェラル式時刻表示を、メゾンとして初採用したのだ。ムーブメントの縁に設置した遊星歯車を調速し、分・時の各指標が載ったリング状の歯車を回す仕組みは、ミステリーウォッチや今年各社から登場したセンタートゥールビヨンで試みられてきた。それを、時分針がキャラクターを邪魔しないために用いたのは、おそらく過去に例がない。

このモデルのために開発されたCal.2979は、ケースバック側の造作にも凝る。主輪列を覆うのは、ブラックPVDを施したティアドロップ型の立体的なブリッジ。これはKAWSのキャラクターたちのパデッド(詰め物)デザインからインスピレーションを得ているという。中央には約72時間のパワーリザーブをかなえる大型の香箱が鎮座し、そのラチェットホイール(角穴車)にも、KAWSを象徴する“×”が象られている。さらに香箱の上を小さく開口し、巻き戻りを防ぐクリックを見せているのも、ユニークである。

プッシュボタンにスティール素材を採用した3つの新しいオプションが登場した。

この8ラップがフルメタル仕様として登場するのは今回が初めてではないが、その仕上がりは依然として希少である。今回の最新JDM(日本国内向けモデル)は、過去40年間で最も多作な時計のひとつである8ラップに、3つの異なるテイストを加えている。

これらの新モデルのスペックに触れる前に、少し背景を紹介したい。オリジナルのタイメックス アイアンマンは1986年に登場した(ちなみに僕と同い年だ)。僕が初めて手にした時計は、インディグロ機能を搭載した1992年の画期的なモデルだった(詳しい話はこちらから読める)。8ラップは、2001年までタイメックスで活躍したジョン・ホウリハン(John Houlihan)氏がデザインした。タイメックスの日本部門によれば、パンデミックが終息する直前、彼らはホウリハン氏に連絡を取り、現代的でありながらノスタルジックな観点から8ラップを再現するための協力を依頼したという。その結果誕生したのが2022年のOGエディションであり、その成功以降、オメガスーパーコピー時計n級品 代引きタイメックスの日本部門はオリジナルの8ラップのフォルムをベースにした興味深くカラフルなバリエーションを次々と展開している。

供給が限られることも多いが、現在タイメックスは8ラップのプラスチックケースモデルを5種類展開している。僕はすべて所有していたが、どれも素晴らしく、価格はセール時で約80ドルから170ドル(日本円で約1万3000円~2万7000円)程度だ。結果それらのコレクションを2本まで絞り込んだ。ひとつは夜光ケースのアブ・ガルシアエディション(下の写真を参照。夜光はスワイプで確認)で、もうひとつはグレーシェードバージョンだ。後者は最近ジェイソン・ヒートン(Jason Heaton)氏にプレゼントした。タイメックスの綴りが“grey”ではなく“gray”になっているのは少し気になるけれど。

今回、すべてSS製のケース、ベゼル、ボタンを備えた新モデルが3色展開で登場した。まずオールブラックのTW5M66500はブレスレット付きで、定価は5万8300円だ。そしてブロンズゴールドトーンのケースに、レジンストラップを組み合わせた8ラップ メタル TW5M66600は5万2800円である。さらにベア(無加工)SS製ケースに、ブラックベゼルとストラップを組み合わせたTW5M66700も5万2800円(すべて税込)だ。注目すべき点として、これら3モデルの製品ページにはすべて、“この商品は限定生産で日本限定です”との記載があるが、Apple PayやGoogle Payを利用して米国への発送が可能であることを確認した。実際、北米在住の知人たちからはすでに手元に届いたとの話を聞いている。ちなみに、僕はまだ購入ボタンをクリックしていない。今年こそは控えめにしたいと思っているのだが…。

いずれにせよ、この3モデルはすべてケース幅39mmで、デジタルディスプレイを搭載し、前面と側面のボタンで操作する仕組みになっている。厚みやラグからラグまでの長さについては確認できていないが、プラスチックケースのモデルではそれぞれ10.5mmと46.3mmだ。機能面では、過去40年間の8ラップの設計を引き継ぎ、時刻と日付の表示に加え、クロノグラフ、アラーム、タイマーを搭載している。これらは、近年の(比較的)手ごろな価格帯のデジタルウォッチではごく一般的な機能だ。ただしこの3モデルはそれほど安価な価格とは言えない。300ドル(日本円で約4万7000円)以上の価格帯で純粋に技術を求めるなら、G-SHOCKやガーミンを選ぶだろう。これらは電波同期、Bluetooth、GPS、さらにはスマートウォッチ的な機能といった、より先進的な技術を備えているからだ。

これは完全にスタイル重視のモデルであり、僕としては狙い撃ちされた気分だ。

我々の考え
言うまでもないが、僕はこのモデルがとても気に入っている。これらは昨年夏に登場した、ビームスのオールメタルリミテッドモデルの延長線上にあるように感じられる。そしてタイメックスの日本部門は、これらがどれほど限定的なものかを明記していないが、現時点では購入可能だ。ただしこれが購入可能な理由は、おそらくプラスチックケースモデルより価格が数倍高いことにあるのだろう。価格が気になる人もいるだろうし、それは理解できる。僕も同じ気持ちだ。しかしG-SHOCKが5600が5600をフルメタル化した際の価格上昇を考えると、納得できる部分もあるだろう。さらに具体的な比較を挙げると、ビームスオールメタル 8ラップの小売価格は6万9850円(税込)で、現在もビームスから購入可能なようだ。

総じて言えば、僕はこのモデルにとても興味を持っており、最終的にはきっと購入してしまうだろうと思っているが、今回のアップグレードに対してこの価格は少し高いと感じる。ただしこの要因は、標準的なプラスチックケースモデルが、その非金属的な特徴をデメリットとして感じさせないからだろう。それに加えて、これらは非常にいい時計だ。これらのプレミアムモデルは、メタルケースが時計としての性能を向上させるために必要とは言いがたい装飾的な要素と感じられるため、対象となるオーディエンスはかなり限られると思う。そしてその理由は、アイアンマンが持つ、誰にでも合う雰囲気にある。これは“ノームコア”なアイコニックウォッチと言えるかもしれない。1993年にビル・クリントン(Bill Clinton)大統領が就任式でこの時計を着用していたが、もし当時メタル版があればそれを選んでいただろうか? 僕はこの時計について、クリントン大統領以上に考えすぎているのだろうか? 多分そうだろうし、おそらく間違いないだろう。

結局のところ8ラップの新たなバリエーションとして、本作をとても気に入っている(特に夜光ケースにはボーナスポイントを与えたい)。しかしこの価格帯は、時計愛好家や8ラップのファンのあいだでも評価が分かれるだろう。いずれにせよ、この時計を手に入れるには日本に目を向ける必要がある。