ヴィンテージブライトリングは簡単にふたつのカテゴリに分類できる。

ナビタイマー・コスモノートシリーズは非常に素晴らしく、ブライトリングがかつて手がけたほかの製品を圧倒している。彼らのトップタイムは手ごろでいい作品だった。彼らのワールドタイマーは超クールだったし、ラトラパンテのデュオグラフはさらにクールだった。しかし、我々のお気に入りのヴィンテージブライトリングはまったく売れることはなかった。

カナダ空軍(RCAF)と国防総省(DND)は長年にわたり、オメガ、レマニア(他社のためにムーブメントを製造していた)、ブライトリングに、ワンプッシュのクロノグラフを注文する習慣があり、それはパイロットや軍人に与えられた。しかし、カナダ人は合理的で実利的な集団なので、普通の軍人がオメガやブライトリングのクロノグラフ(どちらも当時は有名で評判の高い高級時計メーカーだった)を与えられたと知ったら、それを売りたくなるかもしれないと考えた。また軍人の友人や知人、学友の敵がオメガやブライトリングのような高級腕時計を手首につけているのを見たら、それを盗みたくなるかもしれないとも。

そのため、オメガとブライトリングの両社は、RCAFや国防総省のために無署名の文字盤を備えたこれらの時計を製造していた。こうすることで、一般人(兵士や民間人)は自分が見ている時計が何なのかを知ることができない。では、例えば上の写真の時計が実際にブライトリングであることをどうやって知ることができるのだろうか?

その答えはムーブメントにある。

そしてケースはこのようになっている。

ヴィンテージムーブメントに詳しい方なら、上のムーブメントはバルジュー23をモノプッシャーに改造したものだとわかるだろう。このムーブメントは、優れたミリタリーウォッチのように、30分積算計とハック機能付き秒針(スモールセコンド)を特徴としている。裏蓋には国防総省オリジナルの発行番号と、1967年に製造されたことを示す、“/67”で終わるシリアル番号が記載されている。

これらの腕時計は、オメガとブライトリングの両方のバリエーションで、ますます人気と価値が高まっている。その理由はいくつかある。それは間違いなく本物のミルスペックウォッチであるということ、伝説的な時計メーカーの製品であること、そしてオメガとブライトリングがそれぞれの歴史のなかでワンプッシュクロノグラフをほとんど製造していないということだ。サインのない時計はスリーパー(大穴)であり、オリジナルの軍仕様に近いので、最もクールだというのが我々の意見だ。これらの時計のいくつかは、後にケースバックに“Surplus”を意味する“S”と刻印され、文字盤に“Omega”、“RCAF”、“Breitling”と書かれたモデルが作られていた。昨年11月、ジュネーブ・クリスティーズでは、オメガRCAFのワンプッシュモデルが、1万4000ドル(当時の相場で約116万円)以上で落札されている。

そのため地元のフリーマーケットやヴィンテージウォッチ店、あるいはeBayなどで、文字盤に完全に何も書かれていないモノプッシャークロノグラフを見たのなら、それは軍の歴史を持つ非常にクールで珍しいオメガやブライトリングかもしれない。

プレゼントに最適な腕時計として、自分が贈るとしたらどんな時計を選ぶか、

ホリデーシーズン目前のこの時期に、まだギフトを準備していない? 大丈夫。安心して欲しい。

普段使いに重宝しそうな機能派から、あらゆるシーンで活躍するジェンダーレスなモデル、そしてこだわりが詰まった変わり種まで、個性豊かな腕時計を紹介しているので、「まだ何も決めていない!」とお悩みの方は参考にしてはどうだろう。意外にも10万円以下の手頃な価格で購入できるコストパフォーマンスに優れた腕時計というのは、探せばまだまだあることに気付くはずだ。

モンディーン stop2go(ストップ・トゥ・ゴー)コレクション

 10万円以下の価格で時計を贈るとしたら、何がいいか。時計好きの方向けならきっと機械式がよさそうだが、必ずしも贈る相手が時計好きとは限らない。そんな前提で選んだのは、モンディーンのstop2go(ストップ・トゥ・ゴー)だ。

 その名が示しているのだが、stop2goはスイス国鉄(SBB)のすべての駅時計に採用されている、秒針が58秒でダイヤルを1周し、12時位置で約2秒停止したのちに分針が1分進み秒針が再び動き始めるという、ユニークな“stop2go”機能を腕時計で再現した名作である。この時計のムーブメントはクォーツ式。といっても秒針は一般的なクォーツウォッチのような1秒ごとのステップ運針ではなく、機械式のようなスイープ運針方式を採用している。

 そのユニークな動きはもちろん、駅時計に採用されているくらいなので視認性が高く普通に時計としても使いやすいところも魅力だ。またホワイトダイヤルモデルには、時針と分針の裏側に蛍光塗料(スーパールミノバ)が塗布されていて、日中にダイヤルに当たった光を反射して蛍光塗料に光をチャージ。暗所ではその光がダイヤルに反射し、長短針の外周が発光するという、これまた変わった仕様になっている。シンプルな見た目とは裏腹に、実はこの時計でしかない唯一無二の特徴を持った時計なのだ。

リューズレスデザインのため、時間合わせはケース側面(3時位置) にある窪みを付属のプッシュピンで押して操作する。パッケージも何だかかわいい。

 相手の好みを想像しながら選ぶのも楽しいが、せっかくプレゼントを贈るなら話のネタになるもの、それでしか味わえないものがいいと筆者は常々思っている。その点、この時計は申し分ない。何しろ、“stop2go”機能はこの時計でしか採用されないのだから。ちなみにオススメしたい理由はそれだけではない。ファーストモデルは2016年に登場したが、2023年バージョンではリューズのないケースデザインが採用され、より“駅時計”感のある見た目になったのだ。

 さらに従来の41mmサイズ以外に34mmサイズが新たにバリエーションとして加わった。41mmモデルは男性がつける分には問題ないが、華奢な女性が(男性でも細腕の人は)つけるのは難しいだろうと懸念していたが、この新サイズの登場でそうした心配もなくなった。それだけでなく、例えばペアで贈るという選択肢もできるようになったのである。これは贈り物にぴったりじゃないか!

価格: 40mmモデル(レザーストラップ仕様)は9万9000円、34mmモデルは9万1300円(ともに税込)
そのほかの詳細は、モンディーン公式サイトへ

牟田神 佑介、エディター
セイコー 5スポーツ  GMTモデル

 人に物を贈るときは、どうせならそのプレゼントで何か新しい発見をして欲しいと思っている。その人が普段飲まない種類のお酒を送ってもいいだろうし、どこか遠い地へのトラベルギフトを送るのもいいかもしれない。自分では買わなかったかもしれないが、意外とよかった、なんて声を聞けると気持ちがいい。だから、10万円以下でプレゼントしたい時計、というテーマが発表されたとき、この時計が頭をよぎった。2022年に発売された、セイコー 5スポーツ SKX Sports Style GMT モデルだ。

 この時計はセイコーが海外向けに発売した逆輸入モデル、SKX007のデザインをベースとしたGMTウォッチで、直径42.5mm、厚さ13.6mmのケースに収められている。SKX007で1分刻みでドットが配されていた回転ベゼルはツートーンの24時間表記に変更され、視認性の高い赤いGMT針が堂々とセットされた。長らく愛されてきたSKXのデザインを壊さずに、GMT機能を搭載した采配は素晴らしい。いい意味でクセがなく、万人に受け入れられるルックスに仕上がっている。

 搭載しているムーブメントは、Cal.4R34。パワーリザーブは41時間で、GMT針を動かして第2時間帯を調整できる“Caller(コーラー)”GMT機能を搭載している、もちろん、時針単調整機能を備えた“Flyer(フライヤー)”GMTと比較する向きもあると思うが、この時計は上記の内容を5万2800円(税込)のパッケージで提供しているのだ。GMTウォッチとは何かを経験する初めての1本としては、十分だと思う。

 旅行需要の拡大を見越してなのか、今年は特にGMTウォッチのリリースが多かった気がする。この時計をセレクトしたのは、僕自身その流れを受けて気になっていたからかもしれない。だが、すでに3針、クロノグラフ、ダイバーズとある程度のカテゴリを揃えていて、次の1本に悩んでいる誰かに渡すなら、タイミング的にもなかなかいい選択肢なんじゃないかと思ったのだ。もしこの年末、数年ぶりの旅行を検討している友人が周りにいたら、さりげなくこの時計を贈ってみたい。それがどこか遠い地への後押しへとなるのであれば、僕はうれしい。

価格: 5万2800円(税込)
その他の詳細は、セイコー公式サイトへ

松本 由紀、アシスタント エディター
シチズン NJ015 “ツヨサ”シリーズ

 私が選んだのは、今年の9月に日本上陸を果たした(5月にアメリカで先行発売していた)シチズンコレクション NJ015 “ツヨサ”シリーズだ。10万円以下でプレゼントに最適な時計という切り口を聞いたとき、パッと頭に浮かんだのがティソ PRX 35mm(調べたらギリギリ10万円を超えていた)とこのシチズン NJ015だった。どちらもいわゆるブレスレット一体型SSウォッチで、特に意識はしていなかったが、このジャンルしか浮かばなかったあたり、最近気になっているんだと思う。

 本モデル最大の魅力は6万3800円(税込)~という、大変リーズナブルな価格だ。ブレスレット一体型の3針機械式時計のなかで、最も手ごろだと言えると思う。先ほど名前を挙げた同カテゴリのティソの価格は、シチズンのおよそ1.6倍する(もちろんその分パワーリザーブ、防水性などはティソのほうがスペックは上だ)。

 アメリカではブラック、ブルーダイヤルのベーシックなカラーもあるが、日本ではグリーン、イエロー、ライトブルー、ブルーグラデーションダイヤル、そしてブラックダイヤル&コンビの5種類のみが展開している。手ごろな機械式時計を探している時計初心者にはプレゼントしやすい値段だし、時計愛好家には個性的なカラーウェイで遊べるセカンドウォッチとしてもおすすめしやすい。
この記事でも語られているとおり、“誰かがこれを初めての機械式時計として手に取ったら、カジュアルでもそしてよりドレッシーなシーンでも、当然のように活躍している姿が目に浮かぶ”。

 私のお気に入りはグリーンダイヤルだ。単に緑色が好きという理由と、イエローやライトブルーよりかは扱いやすいのではと思ったからだ。もちろん、手に取りやすい価格なので何本購入してもいい!

価格: SSモデルは6万3800円、コンビモデルは6万6000円(すべて税込)
その他の詳細は、シチズン公式サイトへ

和田 将治、Webプロデューサー/エディター
バルチック エルメティック ツアラー

Photograph by Mark Kauzlarich

 近年、マイクロブランドの台頭によって、10万円以下の価格帯でも非常に魅力的な選択肢が増えてきました。時計愛好家やマニア向けだけでなく、機械式時計のエントリーモデルとしても手に取りたくなるブランドやモデルが増えているのはとてもうれしいことです。今回僕が選んだのは、2017年のキックスターターのプロジェクトを機に本格始動したフランス発の時計ブランド、バルチックから今年新たに発表されたエルメティック ツアラーです。

 バルチックは、1940年代〜1960年代のヴィンテージウォッチからインスピレーションを得たモデルを展開することで知られるブランドです。これまでセクターダイヤルのクロノグラフ、本格的なダイバーズウォッチからマイクロローター搭載のドレスウォッチまで幅広く手掛けてきました。エルメティック ツアラーは、ヴィンテージエレガンスを追求した同社初のフィールドウォッチです。

 ケースは直径37mm、厚さ10.8mmのスティール製で、ラグ・トゥ・ラグ(全長)も46mmと非常に着けやすいサイズ感です。リューズがケースと一体化したデザインとなっていることもこの時計の快適性を上げてる要因のひとつです。防水性能は150mを備えており、仕事へ行くときや子供を公園に連れて行くときのような日常使いから本格的な冒険まであらゆるシチュエーションで使える1本です。

Photograph by Masaharu Wada

 内部には、Miyota製の自動巻きCal.9039を搭載しています。パワーリザーブは約42時間と短いですが、信頼性の高いムーブメントです。バルチックが手頃な価格で手に入れることができる理由のひとつでもあります。巻き上げ効率は悪くないため、普段使いにおいてはそれほど心配する必要はなさそうです。

 カラー展開はグリーン、ブルー、ベージュ、ブラウンの4色(個人的にはベージュがお気に入りです)。文字盤の外周にはブラックにホワイトのレイルウェイトラックが印刷されたチャプターリングが配されています。チャプターリングと内側のダイヤルの両方についているスティールのベベルは、光を受けた時にキラッと光り絶妙なアクセントになっています。また、アプライドインデックスは夜光塗料で作られているため、とても明るく発光し、明るい場所でも暗い場所でも高い視認性を誇ります。

 ストラップは、ダイヤルと同色のトロピックストラップが付属。純正のビーズ オブ ライス ブレスレットも装着可能なので、あとから買い足して楽しめるのもポイントですね。

 エルメティック ツアラーは、バルチックが得意とするヴィンテージスタイルのデザインを全体的にとても使いやすいパッケージにまとめられたモデルです。きっと誰に贈っても喜ばれる1本になると思います。自分に贈ってもいいですよね。

 本モデルについての詳細はマークのハンズオン記事「新しいバルチック エルメティック ツアラーが、遅れつつも今年最高のリーズナブルウォッチのひとつに加わる」をご覧ください。

ブルガリがオクト フィニッシモコレクションに18Kイエローゴールドモデルを追加。

ブルガリがそのラインナップをとおして明言したことがあるとすれば、2024年はゴールド(正確には18Kイエローゴールド)が主流になるということだろう。

ラグジュアリーブランドはアール・デコの時代からジュエリーやタイムピースにYGを採用してきたが、超薄型で洗練されたオクト フィニッシモ ファミリーへYGを導入するまでには少し時間がかかった。その第1弾となるYG製オクト フィニッシモは、2023年に50本限定モデルとしてデビューしている。そして今回、ブルガリは2本目となるYG製オクト フィニッシモを発表し、サンレイ仕上げを施したディープブルーのラッカーダイアルを組み合わせた。さらにこのタイミングで、オクト フィニッシモの米国限定仕様であったタスカンコッパーモデルが、グローバルモデルとしてリリースされた(このモデルに関する過去の記事はこちら)。

件のタスカンコッパーダイヤルモデルがこちら。もし興味があれば。

ネタバレ注意。もしあなたがこの最新のフィニッシモにさらなる機械的な革命を求めているのなら、ここではそれを見出すことはできないだろう。しかしこのコレクションが、スタイル的にもメカニカルな面でもすでにどれほど印象的であるかを考えれば、結局のところこれはそれほど悪いことではないと私は主張したい。

YGとブルーの兄弟モデル同様に、このオクト フィニッシモも40mmの直径に6.4mmという極めて薄いケース厚、58面ファセットを持つ洗練された八角形のケースデザイン、そしてローマとイタリアの真髄とも言うべきセンスなど、このコレクション、そしてブランドのデザイン理念をそのまま受け継いでいるモデルだ。本作には、手作業で仕上げられた面取りやサーキュラーグレイン、コート・ド・ジュネーブ装飾など、かつて世界記録を樹立したわずか2.33mm厚の記録的な美しさを誇るCal.BVL 138が搭載されている。エレガントな外見とは裏腹に、スポーツウォッチの領域も視野に入れたこのゴールド製オクト フィニッシモは100m防水を備えており、水しぶきを浴びたり、泳いだり、シュノーケリングを楽しんだりすることもできる。

これまでオクト フィニッシモのラインナップでは、スティール、チタン、カーボンファイバー、ローズゴールドなど、より洗練されたモダンで実用的な素材が用いられてきた。だが、このようなYGで表現されたときこそ、デザインの複雑さが最もピュアで説得力のある形に昇華されるというのが私の意見だ。燦然と輝く稜線や曲線、大胆極まりない幾何学的センスは、最高に華美な、いや、仰々しささえ感じる姿で観賞されることを要求しているかのようだ。

ゴールドのケースとブレスレット、そしてブルーのサンレイダイヤルの組み合わせは、60年代から70年代にかけてさまざまなブランドが発表した、ストーンダイヤルがついた特大のバングルやカフを思わせるとてもファンキーな時計を思い起こさせる。大胆で、派手で、冒険的で、そして遊び心がある。2024年にもっと多くのブランドに取り組んで欲しい組み合わせだ。時計業界の陰謀に乗っかれ! と、あえて言ってみよう。

我々の考え
今回の発表における革新は、機能的というよりむしろ美的な要素が大きい。そのことを考えると、“If it ain’t broke, don’t fix it”(問題がないなら、余計なことをするな)というフレーズが当てはまると思うし、それを“If it ain’t broke, add some 18k yellow gold why don’t ya?”(問題がないなら、18KYGを足してみたらどう?)と言い換えてもしっくりくるかもしれない。

毎週恒例となっているZ世代のネット言説もお届けしよう。“極道妻の美学(Mob-Wife aesthetic)”とは、ファッションブロガーやTikTokerのあいだで流行している最新のマイクロトレンドである。これには大量のヒョウ柄やデカ髪、おばあちゃんの古い毛皮のコート、イーディ・ファルコ(Edie Falco)の『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア(原題:The Sopranos)』などといったもの全般が該当する。この時計は(私も含めて)このトレンドに関わるZ世代の予算から大きく外れていることは確かだが、そんなことはともかく私にとある重要な原則を思い出させてくれた。それは、クワイエットかつミニマムでトーンダウンしたスタイルに対する反動として、派手な豪華さが求められるということである。こうしてマキシマリズムとミニマリズムのあいだで振り子は永久に揺れ続けるのだ。

その美的感覚や価格帯は万人向けではないが、これは時計界における均一的なデザインを意図したものではない(あるいは大衆受けを狙ったものでもない)。この時計には特別な魅力がある。今までは画面越しにしか見ることができなかったが、そう遠くない将来、この子を老いた手首の上で1周させるような幸運がやってくるかもしれない……。

基本情報
ブランド: ブルガリ(Bulgari)
モデル: オクト フィニッシモ イエローゴールド
型番: 103812

直径: 40mm
厚み: 6.4mm
ケース素材: 18KYG
文字盤色: ブルーサンレイ
インデックス: アプライド
夜光: なし
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: 18Kイエローゴールド

ムーブメント情報
キャリバー: BVL 138
機能: 時・分・秒表示
厚み: 2.33mm
パワーリザーブ: 60時間
巻き上げ方式: 自動巻き

価格 & 発売時期
価格: 648万2000円(税込)

クレドール 50周年記念 ゴールドフェザー U.T.D. 限定モデルが登場。

地味な新作? いやいや、ドレスウォッチにおける重要な技術を現代に継承する極めて貴重な限定モデルだ。

クレドールのゴールドフェザーコレクションからブランド誕生50周年を記念し、50周年記念 ゴールドフェザー U.T.D. 限定モデルが登場する。

セイコーは1970年以降、時計の高級化という時代の要請に応えるために18金や14金などの貴金属を使った特選腕時計シリーズを発表した。このシリーズはグループ化され、1974年にはセイコー クレドールの名を与えられ、セイコーにおける高級ドレスウォッチブランドとしての側面を担った。“黄金の頂き(CRÊTE DʼOR)”を意味するフランス語がその名の由来で、グランドセイコーが時計として最高のパフォーマンスを求めて高精度化に注力したのに対し、クレドールはドレスウォッチ領域に特化。細部まで贅を尽くした美しい時計づくりに注力し、薄型化や装飾性を追求してきた。これまでに本格的なコンプリケーションウォッチとしてスプリングドライブ ソヌリやミニッツリピーターなどを生み出してきたほか、磁器ダイヤルを備えた手巻きスプリングドライブモデル「叡智」は世界的にも時計愛好家たちの高い評価を得ている。

セイコーウオッチでは、ブランド誕生45周年を迎えた2019年からクレドールをセイコーブランドから独立したポジションとして差別化を図り、ブランドを刷新。2017年に独立したグランドセイコーに続く2つ目の柱として、ラグジュアリーブランド戦略を強化している。そんななか、昨年クレドールブランドの1シリーズとして復活を遂げたのがゴールドフェザーだ。

セイコー ゴールドフェザーとはもともと、腕につけた心地が羽根のように軽やかで柔らかな薄型ドレスウォッチを目指して1960年に誕生したモデルだった。この時計に搭載された手巻きのCal.60は、中3針(センターセコンドタイプ)の機械式ムーブメントとしては当時世界最薄を誇る厚さ2.95mmを実現。そんなセイコーにおける正統派薄型機械式ウォッチのDNAを受け継ぐのが、現在のゴールドフェザーだ。

1974年のセイコー 特選腕時計カタログに掲載された懐中時計。これに見られる和紙のような文字盤装飾、そして繊細なローマ数字インデックスが今回の限定モデルにおける着想の原点になった。

そしてこのたび発表されたのが、前述のセイコー ゴールドフェザーの流れを汲むセイコー U.T.D.(=Ultra Thin Dress)にインスピレーションを得た新作だ。

セイコー U.T.D.は、セイコー ゴールドフェザーのCal.60と同様の設計思想を引き継ぐ機械式ムーブメントであるCal.6800を搭載したモデルで、2針で厚さ1.98mmという当時でも世界有数の薄さを実現した。この時計は1969年に当時のセイコーが持つ技術の粋を結集したセイコー特別高級腕時計として発表され、1970年代には改良型のCal.6810を搭載するモデルも登場。セイコー特選腕時計の中核をなす時計として、さまざまなモデルが作られた。Cal.6800はその後も改良や多彩な機能を付加しながら幅を広げ、実はCal.68系として現行のクレドールにおいても引き継がれている。

裏蓋はシースルーバック仕様。テンパー仕上げ(いわゆるブルースティール)の鮮やかなブルーのネジは職人の手によるものだ。なお本作にも採用されている68系キャリバーは、クレドールを代表するムーブメントとして製造されている。

新作は、ブランド創成期を代表するモデルのダイヤルデザインを最新の技法で美しく高品質に再現。当時採用されていた和紙のような風合いのパターンをプレス成形で表現し、カーブを描くダイヤルに採用した。この繊細なシルバーダイヤルはゴールドフェザーのコンセプトに基づき、どこを見ても曲線で構成された柔らかさを感じさせるケースフォルムと組み合わされている。価格は121万円(税込)、100本限定のリミテッドエディションだ。4月19日(金)より全国のクレドールサロン、もしくはクレドールショップのみで購入することができる。

ファースト・インプレッション

ダイヤル装飾が見どころであることはもちろんだが、羽軸のような形状の時・分針の中央に細い線を印刷。さらに分針をダイヤルに沿って曲げて高い視認性を確保するなど、細部に至るまで抜かりがない。

ゴールドフェザー U.T.D.限定モデルの登場はこれが初ではなく、昨年リリースされたGBBY979が初である。GBBY979は、ダイヤルの外側から中心に向かって直接刃物でパターンを彫り込む機械彫刻技法のダイヤル、そして同じく直接彫りこまれたインデックス、さらにはムーブメントに“羽根の舞”をテーマにした立体的な金色の華やかな羽根の彫金が施され、特別感がわかりやすく表現されたモデルだった。それと比べると、本作は限定モデルとしてはかなり控えめな仕上がりとなっている。

とはいえ、インスピレーションのもとになった時計はそもそもこれ見よがしな装飾性や高級感を全面に打ち出したものではなかった。そういった意味ではオリジナルに忠実なモデルと言えるだろう。事実、この文字盤にあしらわれている繊細なローマ数字インデックスは極めて貴重な技術によって表現されたものなのだ。

極細のローマ数字インデックス。技術が進歩しても、実は匠の技の存在が欠かせない貴重なノウハウによって初めて実現した。

本作では、オリジナルに見られる職人の手書き版下による繊細で優美なローマ数字インデックスを再現するため、当時の印刷技術を現代に復活させた。例えば、ローマ数字のVやXの交差部分がつぶれないように“スリット”をいれることによって印刷時にインクを溜まりにくくしたり、ローマ数字の直角部分のエッジに“セリフ(ひげとも。書体の角につける飾り)”をいれて角を延ばしインク溜まりを想定してローマ数字をすっきりとした印象になるように手作業で補正されているが、これは当時の時計にも採用されていたノウハウだったという。本作においてはさらに印刷を幾度も重ねる現代の技法を加えることで、当時のものよりもさらに立体的で艶やかなインデックスに仕上げられた。

企画担当者曰く、こうしたダイヤルのプリント技術が失われていく状況に危機感を覚え、現代に継承するべくこの限定モデルプロジェクトが立ち上がったとのことだが、これはまさに高級ドレスウォッチブランドとして名を馳せるクレドールにふさわしい限定モデルと言えよう。

前述のとおり、クレドールはグランドセイコーに続けと開発を強化しておりコレクションの幅も広がって年々その魅力を増している真っ最中だ。ゴールドフェザーもその一翼を担うコレクションであることは間違いない。ブランド50周年を迎えたクレドールでは、さらにさまざまな新作の投入が予定されているようなので、実をいうと個人的にはグランドセイコー以上に動向が楽しみな存在になりつつある。

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基本情報
ブランド: クレドール(Credor)
モデル名: 50周年記念 ゴールドフェザー U.T.D. 限定モデル(50th Anniversary Gold Feather U.T.D. Limited Edition)
型番: GCBY995

直径: 37.1mm
厚さ: 8mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤色: 繊細な和紙のような風合いのパターンを施したシルバー
インデックス: ローマ数字のプリントインデックス
夜光: なし
防水性能: 日常生活
ストラップ/ブレスレット: SS製3つ折れ式バックル付きクロコダイルレザーストラップ

ムーブメント情報
キャリバー: 6890
機能: 時・分表示
直径: 24mm
厚さ: 1.98mm
パワーリザーブ: 約37時間(最大巻上時)
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 2万1600振動/時
石数: 22
追加情報: 日差+25秒~-15秒

価格 & 発売時期
価格: 121万円(税込)

50万円台以下で手に入るおすすめドレスウォッチ4選。

つい最近まで、スポーツウォッチの人気に押されつつあったドレスウォッチだが、我々は似通ったスポーツウォッチに飽きてきたのだろうか、近年はパテック フィリップやカルティエといったハイエンドのドレスモデルへの関心が増してきた。ただ今回は、もっと手軽にその魅力の一端に触れられる可能性を模索し、50万円台以下で流通するおすすめのドレスウォッチを各エディターがピックアップ。

 なおドレスウォッチは狭義の解釈では、“金無垢素材かつ2針の薄型手巻き時計であり、機能はなし(スモセコやカレンダーも含む)”に定められるのが一般的だ。しかし、時代が前進するなか、ドレスウォッチをもう少し広く捉えるのは現実的なことだと考える。

 本記事でのチョイスは前述した定義に必ずしも則らず、“ケース素材および駆動方法、機構は問わず、2針もしくは3針の薄型(10.9mm以下)モデル”とした。手に取りやすい価格帯の提案であるためこれを前提としている点をご了承いただきたい。

 本企画においてのドレスウォッチとは、“クラシカルなスタイルを踏襲した時計”くらいのイメージであり、ドレスアップ/ダウンスタイルも想定できるような汎用性のあるモデルをセレクトした。時計ビギナーはもちろん、スポーツウォッチマニアの方も我々が選んだドレスウォッチに一度目をとおしてもらいたい。

佐藤 杏輔、エディター
ユニバーサル・ジュネーブ “シャドウ”シリーズ(ヴィンテージウォッチ)

今回のテーマはセレクトが本当に悩ましかった。狭義のドレスウォッチを現行の時計で求めるなら、少なく見積もっても100万円以上の予算は覚悟しなければならない。例えば、ムーブメントが機械式ではなくクォーツ、あるいはケースがゴールドではなくステンレススティールであるなど条件を少し広げるなら、現行の時計であっても手頃な価格で手が届くものが見つかるが、その選択肢は極めて限られている。そんななかで筆者が今、手頃な価格でドレスウォッチを購入するなら、間違いなく現行の時計ではなくヴィンテージウォッチから選ぶ。ヴィンテージならブランドやコンディション次第で狭義のドレスウォッチも選択肢がいくつも挙がるし、それこそ前述のように条件を少し広げればその自由度は格段に増すからだ。なお、今回ドレスウォッチを選ぶ際の最低限の条件として、薄型の2針または3針(付加機能はギリギリでデイト表示)であること、そしてブレスレットではなくレザーストラップタイプの時計とした。この条件を満たす数多くの選択肢のなかでも筆者が特に注目しているのが、ユニバーサル・ジュネーブの“シャドウ”シリーズだ。

ユニバーサル・ジュネーブと言えば、多彩な機能を備えたクロノグラフを展開した“コンパックス”シリーズや、スカンジナビア航空のアメリカ便就航を記念してリリースされたポーラールーター(のちのポールルーター)などがよく知られている。特にポーラールーターは若かりしジェラルド・ジェンタがケースデザインを手がけたことでディープな時計好きのあいだでは評価が高い(この時計に興味がある方はこちらの記事をぜひ読んでみて欲しい)が、1960年代に登場した“シャドウ”シリーズもまたジェンタがデザインを手がけた名品だ。

“シャドウ”シリーズは、マイクロロータームーブメントを採用した極薄ドレスウォッチとして発表された。それぞれケース素材でモデル名が異なり、金無垢のゴールデンシャドウ、金張りのギルトシャドウ、そして SSケースのホワイトシャドウを展開した(デイトの有無で厚みは若干異なるが、いずれも6.5mm〜8mmのあいだに収まる)。ブランドのほかの名品に引けを取らない“シャドウ”シリーズだが、現在の市場ではそれほど注目はされておらず、状態のいい金無垢のゴールデンシャドウでも50万円以下で手に取ることができるし、SSケースのホワイトシャドウに至ってはコンディションによるところも大きいが、1桁万円から探すこともできる。フォーマルなシーンでしかつけないから費用を抑えたい、あるいは逆に手頃な価格だからこそ毎日のようにつけたいなど、選ぶ理由は人それぞれだが、いずれにせよ、ドレスウォッチを身近なものにしてくれる選択肢のひとつとなってくれることは間違いないだろう。

価格: 約10万〜50万円程度(執筆時の相場)。仕様や状態によって異なる。

松本 由紀、アシスタント エディター
ロンジン コンクエスト ヘリテージ

私は差し色にゴールドをあしらったモデルが好きだ。ただ金無垢モデルになると、純粋に手が届かないというのもあるがモデルによってギラつき感を感じてしまう。なので今回のドレスウォッチ基準に則ったとき、プラス要素としてインデックスや針にゴールドをあしらったものを選びたいと思った。

 チョイスしたロンジンのコンクエスト ヘリテージはシルバーのサンレイダイヤルに、ゴールドのドーフィン針とくさび形インデックス(ドレスモデルのインデックスにはバーとローマンが好まれるのはわかっている)、翼のついた砂時計のロンジンロゴを組み合わせている。またそのカラーウェイにマッチする、柔らかい色合いのブラウンレザーストラップも素敵だ。

 またドレスウォッチとしては賛否両論あるだろうセンターがやや窪んだダイヤルも、視認性を損ねることなく取り合わせており、個人的には評価したいディテールだ。デザインは、まさに私の理想とするドレスウォッチにピッタリなのだ。

 日付もないシンプルな3針モデルで、ケース径は38mm、厚みは10.8mm、パワーリザーブは約72時間と、取り扱いやすいスペックなのもいい。

 薄型かつシンプルという汎用性の高さはドレスウォッチの優れた点だが、“機能はシンプルに、デザインは派手に”をモットーに生きる私の場合、ドレスウォッチであってもほんの少しの工夫(今回はインデックスとダイヤル)が施された時計を選びたい(ここでピュアなドレスウォッチ主義者に陳謝します)。賛同してくれる方はいるだろうか?

価格: 42万9000円(税込)

牟田神 佑介、エディター
ノモス オリオン 33 デュオ

手に取りやすいプライスのドレスウォッチと聞いたとき、真っ先に思い浮かんだのがノモスのオリオンだった。ノモス自体がそもそもバウハウスの精神を継ぐミニマルウォッチの名手的ブランドではあるのだが、そのなかでもオリオンは特に繊細だ。細く伸びるインデックスに、ミニッツトラックまで届くすらりと長いバトン針を持ち、ふちが柔らかく湾曲するベゼルは薄く、ダイヤル上には“NOMOS Glashütte”のロゴだけがプリントされている。サイズも直径32.8mmから用意されていて小ぶりだが、長く伸びるラグのおかげか、男性の手首の上でもフィット感が損なわれるということもない。このラグも、直線的なものが多いノモスのほかのコレクションと比べて少しだけ内向きになっている。サイズ33のオリオンを実際に使用していた時期があったのだが、クラシックなジャケットなどと合わせた際にはこのラグのわずかな角度が効いてくるように思えた。

 そんなオリオンには、デュオと名付けられた2針モデルも存在する。象徴的な6時位置のスモールセコンドが取り払われたことでより洗練され、エレガントさが増しているように見える。また、インデックスと針にはイエローゴールドがあしらわれた。ライトベージュのベロアレザーストラップとの組み合わせでは柔和な印象だが、これをノモスではおなじみのブラックコードバンのストラップに付け替えればグッとメリハリが効いた華やかな印象になるはずだ。搭載しているのは、薄型の手巻き式自社製ムーブメントであるアルファ2。これによってケースの厚みは7.6mmにまで抑えられている。

 ケースは小ぶりかつ薄く、ダイヤルにはバーインデックスを備え、デイトもない端正な2針表示の時計だ。古典的なドレスウォッチの定義はひととおり押さえている。しかも、高精度な自社製造のムーブメントまで搭載してこの価格である。ドレスウォッチではあるが、ノモスらしい華美すぎないデザインが好き、という僕の気持ちに共感してくれる人がいたらぜひ検討してみて欲しい。

価格: 27万5000円(税込)

和田 将治、Webプロデューサー/エディター
グランドセイコー 初代グランドセイコー“ファースト”(ヴィンテージ)

ライフスタイルが多様化する現代では、ドレスウォッチの幅が広くなっていくように感じますが、個人的に絶対に外せないのは「薄型のラウンドケース」を備えた「2針(または3針)」であること。フォーマルなシーンで袖口にすっぽりと収まり、クロノグラフなどの複雑機構がつかないというのが個人的には絶対条件なのです。

 僕がおすすめするドレスウォッチは、“ファースト”の愛称で知られるグランドセイコーの初代モデルです。1960年、スイス製時計が世界の高級時計市場を席巻していた時代に国内で蓄積された時計製造のノウハウを生かし「国産最高級の腕時計をつくる」という野心的なプロジェクトの結果として誕生したグランドセイコー。その初代モデルは、1960年から約3年間の製造でしたが、探せば今でもつけることができる個体を十分に見つけることができます。確かに初代グランドセイコーは2011年、2017年に復刻されており、60周年の2020年からはレギュラーモデルにもラインナップされ、限定モデルもいくつか登場しています。今回の50万円以下という条件で考えるといずれも予算オーバーですが、オリジナルモデルならまだ選択肢があるのです。

 ケースは直径35mm、厚さ9.7mmの14Kの金張りで、ダイヤルには多面カットの時分針、そして力強い立体的なインデックスが配されていて、控えめながらも存在感を放ちます。12時位置のフラクトゥール(ドイツ文字)の“Grand Seiko”ロゴは、世代によってプリント、彫り、アプライドと変遷があり、小さな部分ですが時計の印象を左右する大きな要素です。手に取って見比べてみるのも楽しいです。ムーブメントは手巻き式のCal.3180。当時はスイスのクロノメーター基準に匹敵する独自の厳しい品質検定を経て、合格した製品にのみ付与される精度証明書と共に販売されました。現代のグランドセイコーも独自のグランドセイコー規格がありますが、最初のモデルからあったというのは興味深いですね。

 ファーストモデルは、現代のグランドセイコーのウォッチメイキングにもつながるものであるだけでなく、日本の時計産業におけるマイルストーン的なとても重要な存在です。ここぞという時に袖元を飾ってくれるドレスウォッチとして、僕にとってはパーフェクトなもののひとつです。

価格: 約30万~50万円程度、仕様、状態によっては約100万円のものも(執筆時の相場)